第9回「ブドウの声が聞こえる」
掲載日:2021年6月1日
ブドウの声が聞こえる
近藤 こういう話をすると変に疑われやすいんですけど、「ブドウが今何をして欲しいのか」わかるようになるんですよ、「どの芽を欠いて欲しい」とか。
田口 ブドウの声が聞こえる、ということですか?
近藤 はい、そういうことです。「作業が無くても畑を見なさい」、と若い子達によく言っています。「草を見たり、どんな芽をしているかを観察したりすれば、ブドウが今何をして欲しいのかわかるよ」って。ブドウ栽培をされている方はみなさんそれを感じていらっしゃると思います。
田口 近藤さんも最初の頃から聞こえたわけではなく、経験を積まれてから聞こえるようになったということですよね?
近藤 はい、最初の頃は分からなかったです。ブドウの声が聞こえるというのは、犬や猫の気持ちがわかるようになるのと似ていると思います。一緒に暮らしていると彼らが今何をして欲しいのかわかるようになるじゃないですか。
田口 確かにそうですね。私もうちの猫が今何をして欲しいのか、わかるようになりました。
近藤 声を聞こうって努力しなくてもわかるようになりますよね。好きで一緒にいるから。
傲慢になると聞こえなくなる声
近藤 でも傲慢になるとブドウの声は聞こえてこなくなるんですよ。
田口 どういうことですか?
近藤 「土壌を改良してやろう」、「樹勢をコントロールしてやろう」、「収量規制してやろう」、「良い実をつけさせてやろう」とか思っていると聞こえてこなくなります。人って傲慢になりがちですよね。
田口 動物の気持ちが分かるというのも、相手のことが大好きで思いやりをもって接するから自然と彼らの心の声が聞こえてくる、伝わってくるわけですものね。相手を想う気持ちがなくなったら、確かに分からなくなってしまいそうです。
近藤 駒園ヴィンヤードでは「Tao」というワインのブランドがあります。「Tao(道)」とは中国哲学上の用語の一つで、天地自然の理に寄り添うワイン造りを行う駒園ヴィンヤードの創業理念でもあり、僕の座右の銘でもあります。「適度に、良い加減で。傲慢さやエゴは持たないように」という自戒ですね。
計算だけで美味しいものは造れない
田口 近藤さんは、社会人になられた当初は車のメーカーにメカニックとして務められ、それからワイン造りの世界に入られて30年近く経つわけですが、その辺りを振り返ってみていかがですか?
近藤 今は畑にいるのが好きなんです。畑はワイン造りの基本の部分ですからね。車の仕事をしている時は機械相手でしたので、「技術」と「データ」を扱っていました。計算通りにやれば、ある程度計算通りの結果がでます。レースだとレギュレーションという決まりごとがあって、その範囲内でやるのですが、ブドウ栽培とかワイン造りにおいては、計算で美味しいものはできないんです。だから面白い。それ故に満足することは現役中にはないと思います。
(つづく)
この記事の著者 / 編集者
田口あきこ(日本ワインなび編集長)
ホームパーティが好きなことから、より良いおもてなしをするためにワインを学び始める。
2015年 ワインスクール『レコール・デュ・ヴァン』の講師に抜擢。
2018年 ワイナリー経営者を育成する学校『千曲川ワインアカデミー』にてブドウ栽培・醸造・ワイナリー経営について学ぶ。
2020年『日本ワインなび』を開設。
2021年 JETROに附置する農林水産省・食品の輸出・プロモーション機関の事業で日本ワインの認知業務に携わり、海外向けに日本のワイナリー紹介記事を執筆。
2024年より千曲川ワインアカデミー倶楽部公式HP『生産者ストーリー』執筆。
同年 北海道余市町登に3.4haの農地を取得し、vineyard開設中。
日本ワイン検定出題作成委員
LDV日本ワインLover講座主任
・ワインスクール『レコール・デュ・ヴァン』講師紹介ページ
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