日本ワインなび

日本ワインの魅力を総合的に発信するサイト

日本ワインを支える人たちを訪ねて
心熱きプロフェッショナルに学ぶ人生の道しるべ

駒園ヴィンヤード株式会社
取締役社長 近藤修通さんに学ぶ
「愛情を持って、
謙虚に相手の声に耳を澄ます」
(全10回)

第8回「有終の美を飾り、次の幕開けになった受賞」

掲載日:2021年6月1日

田口 近藤さんが手掛けるワインは、五味葡萄酒に携わられていた時代から数々のコンクールで多くの賞を取られていますよね。その中でも特に思い出深いエピソードがありましたら、お聞かせいただけますか?

近藤 「Tao甲州駒園2018」がダブルゴールド&グランプリを受賞した2019年のサクラアワード(※1)は特に思い出深いです。ちょうどそのワインを仕込んでいた時期、2018年の8月くらいからM&Aの話が進んでいました。そして2019年3月に「五味葡萄酒」から「駒園ヴィンヤード」に社名が変更されました。「Tao甲州駒園2018」は五味さんにとってラストヴィンテージだったのです。

田口 「五味葡萄酒」としての最後のワインがダブルゴールド&グランプリを受賞されたということですね。それまでは、五味さんのワインは賞を取っていらっしゃらなかったのですか?

近藤 コンクールには出していましたが、シルバーが最高でゴールドを取ったことはありませんでした。「Tao甲州駒園2018」は五味さんの有終の美を飾ってくれたわけです。

田口 それは感慨深かったでしょうね。

近藤 はい、五味さんはとても喜ばれていました。そしてこのワインは、五味さんのラストヴィンテージであり、今のオーナーさんのファーストビンテージです。

田口 有終の美を飾り、そして次の幕開けにもなったわけですね。五味葡萄酒さんのワインを手掛ける中で、ブドウの樹を一文字仕立てに変えたり、草生栽培・有機栽培に切り替えられたりした他には何か気を付けたこと、変更したことなどはあるのですか?

近藤 五味さんの仕事を2015年に引き受けて、2017、2018年くらいからは「好きにやっていいぞ」と言われました。それで色々変えました。例えば酵母です。

田口 どんな酵母に変えられたのですか?

近藤 種類によっては、ワインの個性を決めてしまうほどの酵母も世の中にはあるわけですけど、僕は一番ニュートラルな酵母を使っています。白ワイン用と赤ワイン用、それぞれ1種類しか使っていません。酵母でキャラ作りをしないので、その年、その畑のブドウの個性がストレートに出ます。僕はそういうのを楽しみたくて、造り方を切り替えました。だから栄養剤をいっぱい入れるなどのテクニカルなことは何もしていません。コンクールの話に戻りますが、駒園のワインの評価が高いのは、ブドウの質が良いからだと思います。

駒園ヴィンヤード公式HP『受賞歴・SAKURA AWARED 2019』より出典
https://comazono.com/%e5%8f%97%e8%b3%9e%e6%ad%b4/

若樹と古樹、初めての仕込み分け

田口 ところで、一般的に若樹と比べて古樹からできた実は、より一層凝縮して味わい深いとよく言われますが、こちらではそれぞれ分けて仕込んだりしているのでしょうか?

近藤 2020年のヴィンテージから、マーキングしている古樹とそれぞれに仕込み分けをしています。通常の甲州は9月20日前後の収穫になりますが、マーキングしてある古樹は1か月弱くらい引っ張って10月15日くらいまで完熟させてから収穫します。それを新樽オークで発酵させて今シュール・リー中です。出すタイミングはできるだけ樽の香りで果実味がマスキングしないように熟成したとき。やっぱり果実の味わいを楽しんでいただきたい、という造り方をしています。

田口 古樹だけ別に仕込んだものがどんなワインに仕上がるのか、楽しみですね。

心配だったこと

近藤 はい。でも一方心配なこともありました。2020年に初めて仕込み分けをする前までは、全部一緒に仕込んで高い評価を頂いていました。もしも通説通り古樹の味わいが良いニュアンスになっていたとしたら、若樹だけで仕込んだ甲州ワインの品質が落ちたら困るなって…。
田口 仕込み分けをすることによってそういう心配も出てくるわけですね。消費者としてはつい、古樹だけで飲んでみたいとか思ってしまうわけですが、生産者側としてはそういうリスクもあるわけですね。

若樹だけで仕込んだワインがダブルゴールド受賞

田口 若樹だけで仕込んだワインはすでにリリースされていますよね?

近藤 はい、「甲州駒園2020」というワイン名でリリースされています。おかげさまで、 「駒園甲州」というワイン名で、なんとサクラアワードでダブルゴールドを頂きました。それで一安心したところです(笑)古樹だけ仕込んだワインは、今樽に入っています。それは後で評価されるので、どうなるのかちょっと楽しみです。

(つづく)

※1サクラアワード…ワイン業界現役スペシャリストの女性のみが審査する国際的なワインコンペティション。審査責任者はエデュケーターとして活躍する田辺由美氏。2014年開始。

参考文献
サクラアワード公式HP『サクラアワードとは?』
http://www.sakuraaward.com/jp/index.html

この記事の著者 / 編集者

田口あきこ(日本ワインなび編集長)

ホームパーティが好きなことから、より良いおもてなしをするためにワインを学び始める。2015年にワインスクール『レコール・デュ・ヴァン』のインストラクター養成講座にて講師に抜擢。
2018年 ワイナリー経営者を育成する学校『千曲川ワインアカデミー』にてブドウ栽培・醸造・ワイナリー経営について学ぶ。
2020年『日本ワインなび』を開設し、編集長として運営を行う。
2021年 JETROに附置する農林水産省・食品の輸出・プロモーション機関の事業で日本ワインの認知業務に携わり、海外向けに日本のワイナリー紹介記事を執筆。
日本ワイン検定 出題作成委員
ワインスクール『レコール・デュ・ヴァン』講師紹介ページ
Facebook
note

この記事をシェアしませんか?

LINE
日本ワインを支える人たち
株式会社ヴィラデストワイナリー代表取締役 兼 日本ワイン農業研究所株式会社「アルカンヴィーニュ」取締役 小西 超さんに学ぶ「志を高く持って生きる」(全8回) 株式会社テールドシエル代表取締役 池田岳雄さんに学ぶ 「自分の意思を貫く生き方」(全10回) ヴィンヤード『carraria(カラリア)』 トラストアンドアソシエイツ株式会社 代表取締役 中村大祐さんに学ぶ「自分の人生を大切に生きる勇気」(全7回) ヴェレゾンノート 東山ワイン研究所合同会社 櫻山記子さんに学ぶ「如何なるハードルにも正面から挑むタフな精神力」(全6回) 駒園ヴィンヤード株式会社 取締役社長 近藤修通さんに学ぶ「愛情を持って、謙虚に相手の声に耳を澄ます」(全10回) 株式会社ジオヒルズ ジオヒルズワイナリー醸造責任者 富岡隼人さんに学ぶ「未来へ繋げる視野と行動力」(全7回) 農地所有適格法人 株式会社 自然農園グループ ドメーヌ・イチ 代表取締役 上田一郎さんに学ぶ 「自分らしく、自然体で生きる」(全8回) 株式会社ショーナン 代表取締役 田中利忠さんに学ぶ「チャンスを受け入れる力・夢を描く力・実現する力」(全5回) マンズワイン株式会社 マンズワイン小諸ワイナリー醸造責任者 西畑徹平さんに学ぶ「初志貫徹する真っ直ぐな心」(全8回) 前小田原市長 加藤憲一さん率いる小田原ワインプロジェクトの皆さんに学ぶ「人の力」(全6回) 合同会社たてしなップルワイナリー工場長 井上雅夫さんに学ぶ「一期一会の精神でチャレンジする」(全8回) 日本ワインを支える人たちを訪ねて 国登録有形文化財 児玉家住宅 児玉寧さんに学ぶ「逞しく生きるための術」(全6回) テールドシエルワイナリー 栽培醸造責任者 桒原一斗さんに学ぶ「謙虚な姿勢で、一生勉強」(全8回) 有限会社萬屋酒店 高橋 憲・里栄ご夫妻に学ぶ「造り手の気持ちを伝えたい」(全8回) Domaine Bless 本間裕康・真紀ご夫妻に学ぶ「夫婦で力を合わせて『あったらいいな』を実現」(全9回) ドメーヌ・モン代表 山中敦生さんに学ぶ「人に優しく、自分にも優しく」(全7回)
テイスティング 日本ワイン×お家レシピ 日本ワインの基礎知識