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駒園ヴィンヤード株式会社
取締役社長 近藤修通さんに学ぶ
「愛情を持って、
謙虚に相手の声に耳を澄ます」
(全10回)

第4回「駒園圃場のテロワール」

掲載日:2021年6月1日

甲州の展葉(駒園圃場)

果汁が出てこないほどに凝縮したブドウ

田口 駒園圃場の甲州のワインは色々なコンクールで受賞されていますが、こちらの圃場のブドウの特徴を教えていただけますか?

近藤 駒園ではかなり凝縮したブドウを収穫することができます。2015年から僕が五味葡萄酒を手伝うことになった時に気が付いたのですが、他の畑と比べて、駒園のブドウだけ他の圃場のブドウと違っていることがある点に気が付きました。ここの圃場だけ果汁がなかなか出てこないのです。

田口 果汁が出てこないとは?

近藤 通常だと、除梗破砕機で破砕したとたんに果汁がじゃーっと溢れ出ますよね。でもね、殆ど出てこないんですよ。それだけ凝縮しているということです。

収量規制しないのにブドウが凝縮する理由

田口 こちらの圃場でブドウが凝縮する理由はどんなことが考えられますか?

近藤 収穫量がもの凄く少ないので凝縮したブドウが収穫できます。通常、甲州だと10aあたり1.5tとか。ワインメーカーさんによって、多いところは2tくらい収穫します。ここは40aで3tにも満たないのです。標準の3分の1くらいですね。

田口 収量規制しているということですか?

近藤 いえ、収量規制は一切していません。凝縮する背景は駒園の土壌にあると思います。養水分が潤沢ではないので、自然にストレスがかかっているのです。

田口 ブドウが養水分を吸収しづらい環境ということでしょうか?

近藤 はい。ここは雨が氾濫して川の砂が堆積した砂壌土の畑です。その砂の下に本土壌があるわけです。畑の表面から用水量までは3m近くあると思います。つまりそこまで根を伸ばさないと養水分を吸えないわけです。でも表土は肥沃なので、ブドウにとっては地中深くまで根を伸ばす必要がなくなります。

田口 表土が肥沃だと根は横に伸びてしまいますものね。それで地中深くの用水量を吸えるところまで根がなかなか届かないわけですね。

近藤 はい、それで根域は30~40センチくらいの浅いところに集中してしまうのです。

近藤 駒園も川窪もそういう土壌だから苗がなかなか育たない。だからブドウの樹が成長するスピードも緩やかです。1,2年だと棚に届かないくらいです。

ブドウの気持ち

田口 成長するスピードがゆっくりだと、ブドウの実が凝縮するということですか?

近藤 なかなか成長できない難しい環境だから、できるだけ房数を少なくして良い実をつけて。もっと環境の良いところにいくために、鳥や獣に食べてもらって種を運んでもらいたい、たぶんそういう育ち方をしているのだと思います。

田口 ブドウの気持ちですね。

(駒園圃場)

酸を残してくれる高い標高と冷風

田口 駒園圃場の甲州からできるワインには例えばどんな特徴がありますか?

近藤 酸が抜けないことです。ここは標高が465mあります。甲州市ではかなり高い方で、この高さの標高は他だと勝沼や鳥居平くらいでしょうか。駒園圃場の特徴は、平地で標高が高いということです。それから、秩父の方から冷たい風が毎日、真夏でも吹いてくれます。

田口 高い標高と冷たい風のおかげで酸が残るということですね。

近藤 はい、おかげさまで。今も吹いていますね。午後から必ずこの風が吹いてくれます。それで朝晩の気温が下がり、酸が残るというわけです。

田口 この心地よく冷たい風のことを思い出しながら、駒園の甲州ワインを頂いてみたいと思います。

その年のブドウの個性を表現できる畑

田口 駒園圃場では年によってブドウの出来にバラつきはありますか?

近藤 駒園圃場では毎年良いブドウが収穫できます。駒園以外の圃場にはヨーロッパ系品種も植えているのですが、それらは年によって差が出ます。甲州は山梨で1300年も栽培している品種なので多少の気候差で乱効下しないのだと思います。

田口 甲州を長い間栽培しているこの地だからこそ、毎年安定した収穫ができるというわけですね。

近藤 その年のブドウの個性を表現できる畑なので優劣年は無い、という意味で駒園圃場は毎年がビックビンテージです。駒園の甲州だけで仕込んだワインは毎年コンクールで賞をもらっているので、そう言っても良いかなと思います。箸にも棒にも掛からなかった年は一度もありません。

(つづく)

この記事の著者 / 編集者

田口あきこ(日本ワインなび編集長)

ホームパーティが好きなことから、より良いおもてなしをするためにワインを学び始める。2015年にワインスクール『レコール・デュ・ヴァン』のインストラクター養成講座にて講師に抜擢。
2018年 ワイナリー経営者を育成する学校『千曲川ワインアカデミー』にてブドウ栽培・醸造・ワイナリー経営について学ぶ。
2020年『日本ワインなび』を開設し、編集長として運営を行う。
2021年 JETROに附置する農林水産省・食品の輸出・プロモーション機関の事業で日本ワインの認知業務に携わり、海外向けに日本のワイナリー紹介記事を執筆。
日本ワイン検定 出題作成委員
ワインスクール『レコール・デュ・ヴァン』講師紹介ページ
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