日本ワインなび

日本ワインの魅力を総合的に発信するサイト

日本ワインを支える人たちを訪ねて
心熱きプロフェッショナルに学ぶ人生の道しるべ

株式会社テールドシエル代表取締役
池田岳雄さんに学ぶ
「自分の意思を貫く生き方」(全10回)

第10回「家族で漕ぎ出すワイナリー」

掲載日:2020年7月1日

畑入り口の熊の置物(ワイングロワーの家族を表している)

何でも家族で決定する

田口 何か新しいことを決定するときにはご家族で話し合われるのですか?

池田 何を決定するにも私一人の決断じゃなくて、家族会議で協議して決めています。「この方針でいこう」とか、「主力の品種はこれにしよう」とか。今(2020年5月現在)はホテルとかに卸せないので、じゃあ通販にするか。そのためにはどうしたら良いか。販路を広げるにはどうしたら良いか。1か月のうち3回、夕食を食べながら家族会議しています。

田口 池田さん一人で決定せず、家族で決定するというのは何か理由があるのですか?

池田 私一人で決めて失敗すると、「お父さんのせいだ」といって袋田叩きにあいますから(笑)おのおの責任がついてまわるからその分一生懸命になる。「問題点は全て投げかけてみてね」と家内にも言われたんです。

田口 皆で決定していく形だと、各自のモチベーションも上がりますもんね。

池田 はい。今、コロナ禍でどん底ですけど、これ以上のどん底はないと思いますから。あとはのたうち回りながら上がっていくだけ。2020年東京オリンピックの年までにワイナリー設立という私が掲げた目標をこれで達成しつつあります。2015年に会社を設立して、その5年後の2020年にはワイナリーを造るよ、と。紆余曲折ありながらそれを目標にやってきました。

田口 最初のころは家族や周りの方からもずいぶん反対されたとのことでしたものね。ご自身が5年前に描いたことを実現されて、尊敬します。

このまま終わらせられない

池田 最初はみんなに反対されたけど、今は私がブレーキ役なんですよ。生活していくために冒険はできない。私と家内は年金があれば生活できるけど、子供たちを路頭に迷わせないように、という思いがあります。

田口 池田さんがブレーキ役ということは、今はご家族のみなさまが自発的に協力してくださっているということでしょうか?

池田 「これだけお父さんとお母さんが苦労してきたんだから、このままで終わらせられない」と、今は子供たちも応援してくれています。常に私と家内の姿を見てくれていたんです。「私たちが協力しよう」と自発的に協力を得ているのは何よりです。


雲海と虹と圃場(池田さんより提供)

私が目指すワイン

田口 そうでしたか。それは何よりです。それから、今年の春からお嬢さんの旦那さまが栽培醸造責任者として加わったそうですね?

池田 はい。桒原 一斗(くわばら かずと)は次女の夫で栃木県のココファーム・ワイナリーに15年勤務していました。ココ・ファームでの経験を生かしてブドウ本来の味を引き出す野生酵母による発酵で「糠地を表現したい」と意気込んでいます。糠地が醸し出すテロワールを大切にしてもらい、ブドウ本来の味を引き出す、自然と調和したワインづくりを目指してくれればと思います。

田口 新たな力が加わって、テールドシエルがまた一つ大きくなりますね。

池田 得意分野では誰にも負けないということで、それぞれの持ち場を頑張ってもらっています。栽培と醸造は桑原、 販促、ラベル、ホームページは長女の旦那が手伝ってくれて。それぞれ年齢も違うし、みんなで集まれば良いものができるので、そうやって伸ばしていけばいいのかなと。これからが勝負だと思います。派手なワイナリーじゃなくていいんです。来た人が癒される、他にない泥臭いワイナリーを目指したいですね。

私にとってワイン造りとは

田口 この取材の締めくくりに聞かせてください。池田さんにとってワイン造りとは?

池田 自然と共存した、第2の人生の集大成です。第1の人生は子供を育てながらがむしゃらに働いてきました。第2の人生はのんびりすることもできたんだろうけど、ワインを造ることで自分の生きた証を表したい。ブドウを栽培してワインにしてそのワインがとても美味しかったと言われるように。亡くなる寸前に人生を振り返る時、「あの時は雨が多くてああだった、こうだった、いい時もあったよね」と思い返して終活を迎えたいです。

(おわり)

編集後記

周りに反対されても惚れ込んだ糠地地区を諦めず、結果として素晴らしいワインを生み出している池田さん。また、日本では難しいと言われているピノ・ノワールを、信念を持って千曲川ワイン特区の看板品種にしたいと意気込まれています。「2020年にワイナリーを完成させる」と掲げた5年越しの夢も今年8月に実現されます。取材を通して、「自分の意思を貫く」という大切なことを教えていただきました。
また、池田さんに会ったことのある方は皆、口を揃えて「優しいお人柄の池田さんのファンになった」と仰います。例外なく私もその一人となりました。池田さんが前職で一緒にお仕事をされた方が、池田さんの応援団になっているということもよくわかりました。池田さんは周りの人たちとの繋がりを大切にされていることだけでなく、「糠地でひと休みさせてから南へ行かせてやろう」という思いでやっていらっしゃる蝶の保護活動からもそのお人柄が伺えます。
畑入口の熊の置物は、「小さなワイングロワーが増え、各々の特徴を生かしたワインづくりを目指してひとつの村づくりをする、のどかな田園の田舎」をイメージして造られたそうです。池田さんの真っ直ぐな意思のもと、その夢も実現する日が目に浮かびます。

この記事の著者 / 編集者

田口あきこ(日本ワインなび編集長)

ホームパーティを開催することが多いことから、より良いおもてなしをするためにワインを学び始める。2015年にワインスクール『レコール・デュ・ヴァン』のインストラクター養成講座にて講師に抜擢。
2018年春からワイナリー経営者を育成する学校『千曲川ワインアカデミー(長野県東御市)』にてブドウ栽培・醸造・ワイナリー経営について学び、講師業の傍ら、超新規ワイナリーの立ち上げ・畑仕事のお手伝いにも出掛ける。
2020年『日本ワインなび』を開設し、編集長として運営を行う。
ワインスクール『レコール・デュ・ヴァン』講師紹介ページ
Facebook
note

この記事をシェアしませんか?

LINE