第3回「今も活きる前職での経験」
掲載日:2020年7月1日
入口から見上げたテールドシエルの圃場
画期的なアイデアを発案
田口 テールドシエルを始められる前は、どのようなお仕事をされていたのですか?
池田 ガス会社の役員をやっていました。平成8年に通商産業省(現在の経済産業省)の共同型モデル事業に参加することになりまして。「1社で独自に色んなことをやるよりも、地域のみんなで集まってやろうか」って私が発案したんです。系列の違う会社が50数社あって、そのうち23社の方がいいねって言ってくれました。小さいガス屋さんと大きいガス屋さんとさまざまでした。
田口 具体的にどんなことを提案されたのですか?
池田 電話回線や携帯を使って合理化を図ろうという提案です。例えば、それまではわざわざ従業員がガスの検針へ行っていたんですが、それを自動検針に切り替えること、事故を未然に防ぐためにガス消し忘れた時や、何日間か水を使っていないお宅があれば通報が入るようにすることです。
田口 何日間も水を使っていない時に通報が入るというのは、例えば一人暮らしのお年寄りの安全を考えてということですか?
池田 はい、そうです。お年寄りの安全を考えて。実際に通報が入ったら福祉事務所に知らせるんです。そういうことをみんなで合理的にやったら良いのではと提案したんです。それで株式会社23社の出資で「集中監視センター株式会社」を立ち上げるに至りました。立ち上げる前、設立準備委員会の事務局長を私がやっていたので、「池田さん、代表でやって」と言われて。私がその新しい会社の代表取締役を務めることになりました。
一国一城の主たちをまとめる苦悩
田口 23社に賛同してもらって新しい会社を設立・・・。すごいことですね。23社集まることで、それぞれの会社に多くのメリットが生まれたのでしょうね。
池田 はい、それと皆さんの会社に負担がかからなくなりました。例えば夜勤の人を入れなくていいんです。それまでは、夜間に通報がきたら行かなきゃいけないですから。電話回線によって一ヶ所の監視センターに通報が入ってきてそこで対応できるようにしたんです。
田口 画期的なアイデアですね。でも、23社もの社長さんたちをまとめるのは大変そうですね?
池田 はい、それぞれが一国一城の主ですから、その分まとめるのは大変でした。同じ志を持っているんだけど、23社それぞれ利害が全然違いますから。その時は「人」で苦労しましたね。実は円形脱毛症になったんですよ。円形脱毛症ってあっという間になるんですね。500円玉くらいの禿ができて・・・。
田口 よほどの精神的ストレスだったのですね。
相手の良いところだけを見る
池田 ええ。本当はね、集中監視センターを立ち上げるとき、「皆と同じレールの中で走っていくんじゃなくて、何で俺があの時に事務局長をやらされたんだろう」って思っていました。「会社は設立したから、ガス会社に帰ればいいな」、なんて思っていたら、「お前残って代表でやれよ」と言われて。
田口 ご自身で志願されて代表になられたわけではなかったのですね。
池田 はい。その時は苦しみながら無我夢中で。でも、それが今になって役に立っています。
田口 どんな風に役に立っているのですか?
池田 色んな人たちと話をしていて、「この人はこういう良いところを持っているんだ」とわかるようになってきたんです。欠点を見つけるんじゃなくて、良いところだけを見るんです。そうしないと精神的にまいっちゃいますから。
田口 私はすぐまいっちゃう方なので、勉強になります。集中監視センターのお仕事はどれくらいの期間続けられていたのですか?
池田 60歳になるまで20年間やっていました。62歳まで名前はありましたけど。そういう人たちとのかかわりをさせてもらって、苦労はしたけど。でも今はその人たちが支えになってくれています。頼んだわけじゃないんだけど、広報を担当してくれる人とか。「池田さんはバカだから60歳過ぎてからワイン造り始めたみたいだからワインを買ってやろう」という人とか。
田口 それはありがたいですね。それも池田さんのお人柄故のことなのでしょうね。
池田 いえいえ。それから、「テールドシエルからの景色は一人で見てももったいないから」と言って、お客さんを連れて買いに来てくれる方もいます。
田口 それだけ素晴らしい景色ということですね。
新しいことに目を向ける力
池田 そんなわけで、集中監視センターの仕事は大変でしたけど、でもその経験のおかげで常に新しいことに目を向けられるようになりました。だからブドウ栽培をしていても、栽培だけじゃなくてワインも造ろうって思ったんです。
田口 小諸市ではブドウ栽培をやっている方は多くても、ワインまで造られている方はあまりいらっしゃらないですよね?
池田 小諸市でブドウ栽培をしている方は、マンズワインさんにブドウを買い取ってもらうのが一般的でした。でも私は「自分たちのブドウを造って自分たちのワインにするんだ」って思ったんです。市内でワインを造りだしたのはマンズワインの次がうちになります。
田口 前職で培われた、「新しいことに目を向けらえる力」をこの世界でも発揮されたということですね。
(つづく)
この記事の著者 / 編集者
田口あきこ(日本ワインなび編集長)
ホームパーティが好きなことから、より良いおもてなしをするためにワインを学び始める。
2015年 ワインスクール『レコール・デュ・ヴァン』の講師に抜擢。
2018年 ワイナリー経営者を育成する学校『千曲川ワインアカデミー』にてブドウ栽培・醸造・ワイナリー経営について学ぶ。
2020年『日本ワインなび』を開設。
2021年 JETROに附置する農林水産省・食品の輸出・プロモーション機関の事業で日本ワインの認知業務に携わり、海外向けに日本のワイナリー紹介記事を執筆。
2024年より千曲川ワインアカデミー倶楽部公式HP『生産者ストーリー』執筆。
同年 北海道余市町登に3.4haの農地を取得し、vineyard開設中。
日本ワイン検定出題作成委員
LDV日本ワインLover講座主任
・ワインスクール『レコール・デュ・ヴァン』講師紹介ページ
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