第8回「造り手の気持ちを伝えたい」
掲載日:2023年6月30日
生産者が設定した価値のままで販売したい
憲「うちはお客さんを選ぶというほどではないのですが、転売する方に売るのは嫌なんです。以前、ちょっと乱暴な買い方をする人が増えた時期があって。」
田口「乱暴な買い方とは?」
憲「カートにガガっと入れて買っていく方がいて。カードもやめましょうということになりました。日本酒とかビールはいいけど、日本ワインの販売でカード決済はやめました。それでそういうお客さんは減りました。その上、一つの銘柄につき1本2本しか売りませんとうたっているから、売れなくなっています(笑)」
田口「利益は減っても飲むべき人に飲んで欲しいということですね。ところで、転売された場合のデメリット懸念はどんなことでしょう?」
憲「僕ら自体にデメリットはありません。僕らは仕入れた値段と小売りの値段差でお金がもらえればいいわけです。でも転売されると、生産者の設定した価値と違う価格になってしまうわけです。例えば生産者が3千円の価値だと思うものが消費者に渡る時に1万円になっているとします。すると、消費者は『1万円の価値のワインではないな。』と思ってしまうことがあるわけです。」
現代に求められるビジネスとの矛盾を抱えながら
田口「オンライン販売についてはどのように考えていますか?」
憲「ネット上の販売は基本的に蕎麦焼酎です。黒姫、戸隠は蕎麦の産地なので、蕎麦の焼酎を造りたいなと思って、『黒姫乃花(くろひめのはな)』という蕎麦焼酎を造ってもらっています。それはうちでしか売っていないから、遠くの人も買えたらいいかなと思いまして。」
田口「ワインについてはどうですか?」
憲「ワインのネット上販売は基本的にやっていません。ワインは話しをして売りたいなと思っています。うちに来たことのある人には発送していますよ。一度も来られたことのない方には送っていません。」
田口「飲むべき人に飲んでもらうための良いシステムだと思います。」
憲「ただ難しいとは思います。いっぱいは売れないから。今の社会の中では、いっぱいうる方が喜ばれますから。でも、それでやっていくしかないですし。」
田口「悩ましいところですね。」
次の世代へ継ぐまでは今のスタイルで
憲「夫婦2人でやっているうちはこのスタイルを貫いていけばいいかなと。実は、娘がこっちに戻って来ると言っています。今、京都にいて酒ディプロマの資格を取ったところで、今年はワインエキスパートに合格しました。いずれは跡を継ぐという話をしているところです。」
田口「こんなにたくさんのワイナリーと繋がっているお店もあまりないでしょうから。高橋さんご夫妻さまが築かれてきたたくさんのご縁も継いでくれたら嬉しいですね。」
里栄「最後に、遠くから来て頂いたら是非、故「C.Wニコル」さんが愛した黒姫の森、山、野尻湖の風景、自然から癒しを感じて帰ってください。」
(おわり)
編集後記
昭和初期から3代に渡り続く萬屋酒店。高橋ご夫妻さまは初対面の私に対しても終始朗らかに長野ワインと生産者、お客さんに対する想いを話してくださいました。長時間に渡る取材を通して、私は「造り手の気持ちを伝えたい」という高橋ご夫妻の情熱に私も胸が熱くなりました。そして、「造り手の立場になって考えながら仕事をすることの大切さ」を教えていただきました。
日本ワイン・長野ワインの魅力の一つは、「生産者に会いに行けること」とよく言われています。それはもちろんのこと、高橋ご夫妻さまのような「販売する方たちのお話を聞いてワインを購入する」という新しい楽しみを発見した取材となりました。
この記事の著者 / 編集者
田口あきこ(日本ワインなび編集長)
ホームパーティが好きなことから、より良いおもてなしをするためにワインを学び始める。2015年にワインスクール『レコール・デュ・ヴァン』のインストラクター養成講座にて講師に抜擢。
2018年 ワイナリー経営者を育成する学校『千曲川ワインアカデミー』にてブドウ栽培・醸造・ワイナリー経営について学ぶ。
2020年『日本ワインなび』を開設し、編集長として運営を行う。
2021年 JETROに附置する農林水産省・食品の輸出・プロモーション機関の事業で日本ワインの認知業務に携わり、海外向けに日本のワイナリー紹介記事を執筆。
日本ワイン検定 出題作成委員
・ワインスクール『レコール・デュ・ヴァン』講師紹介ページ
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