第5回「糠地の風土、空気、ブドウを映すワインを造りたい」
掲載日:2023年4月3日
浅間山とテールドシエルのブドウ畑
目的を果たすための手段、そしてその手段を達成するには
桒原 自分がテールドシエルでワイナリーを造るのであれば、この糠地の風土、空気、ブドウを映すワインを造りたいと思いました。醸造ではどうすればそういうワインができるかというと、野生酵母でやること、補糖しない、補酸しない、基本的には亜硫酸を添加しない、清澄しない。それが僕の手段です。目的ではなく手段です。目的と手段を間違えてはいけない。それらの手段を達成するためにはどうするかと考えた時に、どんなワイナリーを造ればいいのかというところに至ります。
田口 野生酵母を使うことなど、桒原さんの手段を達成するためのワイナリーとはどんなおものなのでしょうか?
桒原 一つは温度管理を徹底することです。亜硫酸なしでやるということは、色んな菌が動いてくるということです。良い菌もいれば、酢酸やバクテリアなど悪い菌もいます。良い発酵に持っていくにはどうするか。亜硫酸を入れれば悪い菌を抑えられるけど、入れないなら温度を管理するしかない。魚を捌くのと同じです。魚を暑い中で捌いたら腐敗するので、新鮮な状態でプレスしたり仕込むのが大事です。
田口 分かりやすい例えですね。
テールドシエルの醸造施設内
グラヴィティ・フローにこだわる理由
桒原 それで、仕込んだものをうまく発酵させるには冷暖房で温度管理を徹底したワイナリーにすることが必要です。僕はポンプを使わないやり方をしたかったんです。
田口 ポンプを使いたくない理由とは?
桒原 重力だけでワインを造ると酸化しにくいんです。山の斜面にワイナリーを造って、プレス機の段々の下に樽があって、その段々の下に瓶詰があって、というように傾斜を利用する生産者の方たちもいるんですけど、それをやるためには膨大な資金が必要です。それで、ある程度の広さと高さがある箱の中でグラヴィティフローにするためにどうしたらいいかと考えました。
田口 斜面ではないところでグラヴィティ・フロー(※1)を利用する方法を考えたということですね。
桒原 台をつけて、台の上に置いてタンクを下に置いて、じわじわと出てくる果汁を樽に入れる。台の上に樽を置いてサイフォンの原理でワインができる。フォークリフトを旋回させるためにどれくらいの広さが必要かということなど、ワイナリーの設計からこだわりました。
田口 考え抜かれたワイナリーということですね。長年の経験があったらからこそ今の形に持っていけたということなのでしょうね。
桒原 一番必要なことは完熟して腐敗のないブドウを造るのに尽きるんですけど。ゴールがあってそのためにはどういうワイナリーを造ればいいか、よく考えました。
(つづく)
※1 グラヴィティ・フロー…機械を使わずに重力で液体を高い所から低い所に流すことで移動させるテクニック。
この記事の著者 / 編集者
田口あきこ(日本ワインなび編集長)
ホームパーティが好きなことから、より良いおもてなしをするためにワインを学び始める。
2015年 ワインスクール『レコール・デュ・ヴァン』の講師に抜擢。
2018年 ワイナリー経営者を育成する学校『千曲川ワインアカデミー』にてブドウ栽培・醸造・ワイナリー経営について学ぶ。
2020年『日本ワインなび』を開設。
2021年 JETROに附置する農林水産省・食品の輸出・プロモーション機関の事業で日本ワインの認知業務に携わり、海外向けに日本のワイナリー紹介記事を執筆。
2024年より千曲川ワインアカデミー倶楽部公式HP『生産者ストーリー』執筆。
同年 北海道余市町登に3.4haの農地を取得し、vineyard開設中。
日本ワイン検定出題作成委員
LDV日本ワインLover講座主任
・ワインスクール『レコール・デュ・ヴァン』講師紹介ページ
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