第2回「ココ・ファーム・ワイナリー時代の思い出に残るエピソード」
掲載日:2023年4月3日
テールドシエルのブドウ畑にて(2022年10月撮影)
皆で力を合わせて石切り場を開墾した思い出
田口 ココ・ファーム・ワイナリー時代に思い出に残っているエピソードがあれば1~2つ教えていただけますか?
桒原 ブドウ栽培やワイン造りをやっていた中で、テラスヴィンヤードという新しい畑を作造ったことがあります。石切り場を開墾するという話になって、ブドウも何も植えられないんじゃないかというような場所でした。柱を立てるにも普通は1本10分で打てるところに2時間くらいかけて。
田口 1本立てるのに2時間。それは大変ですね。計何本くらい立てたのですか?
桒原 400本立てました。石がたくさん出てくるので、園生たちが真冬のなか素手で作業してくれていました。畑造り は一人ではできません。ココ・ファーム・ワイナリーは60年くらいの歴史があるんですけど、ワインというのは人が造るんだ、と感じたことで思い出に残っています。畑作りでは大変な思いをしたので、今となっては畑作りは苦にならない仕事になりました。
諦めない精神で収穫祭を成功させた思い出
田口 もう1つ思い出に残るエピソードを教えていただけますか?
桒原 2019年10月12日台風が来て大雨が降り、その深夜にがけ崩れが起きました。シンボリックな畑の真ん中がドカッと崩れて。山の4分の一が崩れました。11月の後半に収穫祭が予定されていました。
田口 収穫祭を間近に控えている時にそんなことがあったのですね。
桒原 最初は何から手をつけようかという話になりました。普通だったらありえないですけど、収穫祭をやることになりました。2日間で1万5千人が訪れる収穫祭が1か月後に迫っていたというわけです。機械は入れないので皆でバケツで土を入れて。背水の陣から這い上がるというのがココ・ファーム・ワイナリーの思い出です。窮地でも収穫祭までこぎつけられたのは皆で力を合わせることができたからです。一人じゃできないことだし、皆の姿を見ていれば自分ももっと頑張ろうと思うし。
崖っぷちでも必ず見つけられることはある
田口 周りから諦めた方がいいと言われることでも、こころみ学園(※1)の園長先生は簡単には諦めない精神で最後までやり通すという印象があります。そういう影響もありましたか?
桒原 はい、園長先生はそういう方です。だから諦めることはないです。何でも試みるという足利の方言で『何でもやってんべぇ』というのが延長の原点でもありました。昔は日本でワインを造ることも無理だと言われていました。2015年にテールドシエル標高900m以上の土地で葡萄栽培をやる時も無理だよと言われてたと聞きます。しかし、最初にツルハシを入れる覚悟や強い気持ち、そういう諦めない精神があるから今があるのかな。糠地にきて崖っぷちでやっている時もありますけど、諦めない気持ちでどうにか持ちこたえていれば必ず希望の光が見えてくるものです。
田口 諦めない精神は園長先生の影響だけでなく、桒原さんの性格とも関係がありますか?
桒原 僕はもともと野球をやっていました。そういう性格というのもありましたが、それをより強くしてくれたのは、消防の時の先輩の教えや訓練が生きているのもあります。まだまだ未熟ですけど、これまでの経験を通して今があると思っています。
(つづく)
※1 指定障害者施設こころみ学園…1950年代、栃木県足利市の特殊学級の生徒たちと川田昇氏(後のこころみ学園 園長)が山の急斜面にブドウ畑を開墾。1969年、そのブドウ畑の麓にこころみ学園がスタート。重度の障害のある方に居住の場を提供すると共に、ブドウの栽培など日中活動支援を提供している。
参考:有限会社ココ・ファーム・ワイナリーウェブサイト
https://cocowine.com/about_coco
この記事の著者 / 編集者
田口あきこ(日本ワインなび編集長)
ホームパーティが好きなことから、より良いおもてなしをするためにワインを学び始める。
2015年 ワインスクール『レコール・デュ・ヴァン』の講師に抜擢。
2018年 ワイナリー経営者を育成する学校『千曲川ワインアカデミー』にてブドウ栽培・醸造・ワイナリー経営について学ぶ。
2020年『日本ワインなび』を開設。
2021年 JETROに附置する農林水産省・食品の輸出・プロモーション機関の事業で日本ワインの認知業務に携わり、海外向けに日本のワイナリー紹介記事を執筆。
2024年より千曲川ワインアカデミー倶楽部公式HP『生産者ストーリー』執筆。
同年 北海道余市町登に3.4haの農地を取得し、vineyard開設中。
日本ワイン検定出題作成委員
LDV日本ワインLover講座主任
・ワインスクール『レコール・デュ・ヴァン』講師紹介ページ
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