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テールドシエルワイナリー
栽培醸造責任者 桒原一斗さんに学ぶ
「謙虚な姿勢で、一生勉強」
(全8回)

第4回「テールドシエルでのワイン造り」

掲載日:2023年4月3日

(テールドシエル ピノ・ノワール2020)

発酵がなかなか始まらずタンクに祈った日々

田口 桒原さんのワインは引く手あまたでもはや入手困難ですが、きっと順風満帆なことばかりではなかったと思います。これから生産者になる方たちの参考にもなると思いますので、テールドシエルでのワイン造りで苦労したことがあれば教えていただけますか?

桒原 ワイン造りは大きなバスケットプレス機(※1)を使ったり、グラヴィティ・フローでやっています。他ではあまりやってないやり方で始めたのですが、(と或る白ワイン造りで)発酵が全然始まらなくて。普通なら10日くらいすればちょっと動いてきて始まるんですけど、全く動いてこなくて。何でだろうと考えながら、動いてくれと毎日タンクに祈っていました。

田口 それは心配だったことでしょう。


テールドシエルで使用しているバスケットプレス機

バスケット・プレス機とバルーン式プレスから出てくる果汁の違い

桒原 色々調べたら分かったことがありました。バルーン式プレス(※2)の場合、回転するのでブドウはほぐされながらプレスされて、果汁がちょっと濁るんです。それで1日冷蔵庫で冷やしてデブルバージュ(※3)して不純物を落として、ポカリスエットぐらい濁ったものを別の容器に移して発酵させるというのが最近の定番のやり方です。自分がデブルバージュした時、果汁がきれいだったことを思い出しました。バスケットプレスを使ったらきれいな果汁が出るのに、それをデブルバージュしたのできれいになり過ぎてしまったのです。すると栄養がないし、滓にも酵母がいたりするのでそれをなくしちゃった状態だったわけです。

田口 バスケットプレスはバルーン式プレスに比べてきれいな果汁が出てくるので、でデブルバージュすると更にきれいになりすぎて発酵が始まらなかったというわけですね。

桒原 はい。バスケットプレスを使っている生産者さんによっては、そのまま発酵を待つ人も多いことがわかりました。それからはデブルバージュせずにプレス機から樽などに移すようにしています。

田口 なかなか発酵が始まらなかったマストはその後どうなったのですか?

桒原 1ヵ月くらいして醗酵が起きてくれました。普通はその後の工程で滓引きをし滓と分けるのですが、酵母や栄養がある大切な滓なので滓引きせずになんとか祈りながらでしたが発酵が終わってくれました。

田口 新しい機材を使うと予期しないことが起きることもあるわけですね。それも解決したわけで、次は更に美味しいワインができますね。

デブルバージュしないことで得られるメリット

桒原 バスケットプレスは良い果汁ができるんですけど、デブルバージュしないというのがミソ。マニュアル通りだとデブルバージュするものなので、ここが反省するところです。デブルバージュしないということは、『果汁を移動することを一回減らせる』ということなので、酸化のリスクを減らせます。

田口 バスケットプレスはそういうメリットも出てくるわけですね。

桒原 移動するとワインにストレスを与えますし、酸化するリスクもあるので、工程を1つ減らせるというのは、今となっては分かって良かったことです。

(つづく)

※1 バスケット・プレス機…上から圧力をかけて絞る仕組みのプレス機
※2 バルーン式プレス機…ステンレスシリンダーの中にある膜が風船のように膨らんで果汁を絞る仕組みのプレス機
※3 デブルバージュ…圧搾した果汁を暫く置いて不純物を沈殿させる白ワインの醸造工程

この記事の著者 / 編集者

田口あきこ(日本ワインなび編集長)

ホームパーティが好きなことから、より良いおもてなしをするためにワインを学び始める。2015年にワインスクール『レコール・デュ・ヴァン』のインストラクター養成講座にて講師に抜擢。
2018年 ワイナリー経営者を育成する学校『千曲川ワインアカデミー』にてブドウ栽培・醸造・ワイナリー経営について学ぶ。
2020年『日本ワインなび』を開設し、編集長として運営を行う。
2021年 JETROに附置する農林水産省・食品の輸出・プロモーション機関の事業で日本ワインの認知業務に携わり、海外向けに日本のワイナリー紹介記事を執筆。
日本ワイン検定 出題作成委員
ワインスクール『レコール・デュ・ヴァン』講師紹介ページ
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