第8回「私にとってワイン造りとは」
掲載日:2022年12月13日
奥深い泡の世界、まだまだ学ぶことが多い
田口 「こちらでは委託醸造でワインも造られているそうですね?」
井上 「はい。全部はお引き受けできないので、お断りしている方が多い現状ではありますが。おかげさまで私が仕込んだ瓶内二次発酵方式(※1)のシャルドネも好評のようです。」
田口 「瓶内二次発酵方式のワインも造られているのですね。」
井上 「はい。ただ、うちはデゴルジュマンできないので澱はそのままです。濁り、澱、火入れをしないから酵母が生きています。糖分が残っていますからまだ発酵途中というわけです。」
田口 「それも個体差を楽しめるというわけですね。」
井上 「はい。そういう面白さをこっちで初めて学んだのでワインにも活かすようにしています。泡の世界は奥が深い。再現性のあるデータまではできないまでも、『こうすると、シュワシュワっと口の中に広がる細かい泡のスパークリングワインを造れる』というようなことが感覚としてわかってきました。まだまだ学ぶことが多いです。まだまだリタイアできないな、」
木樽でワインを熟成させているところ(たてしなップルワイナリー)
一期一会の精神でチャレンジできる
田口 「取材の最後に聞かせてください。井上さんにとってワイン造りとは?」
井上 「常に一期一会の精神でチャレンジできるのがワイン造りだと感じています。ワインは原料であるブドウが毎年どころか毎回違うじゃないですか。それを仕込むのは一期一会だなと思っていて。試行錯誤もするし、チャレンジングです。」
田口 「一期一会の精神で毎回ブドウに向き合っているということですね。」
写真右:市川大樹さん(たてしなップルワイナリー 支配人)
良き相棒に恵まれて
井上 「私は65歳なので力仕事がしんどいこともありますが、相棒がいるものですから。」
田口 「支配人の市川大樹さんですね。今回の取材の窓口にもなってくださり、とても感じがよくて親切な方ですよね。」
井上 「よく気が付いて何でもやってくれます。」
田口 「井上さんと市川さんのコンビでのお仕事、毎日楽しそうですね。」
井上 「時には意見がぶつかることもありますが、何でも言い合える間柄ということです。もうちょっと2人で一期一会の精神でチャレンジングな生活を続けていきたいです。ここで造ったワインを楽しんでくださる多くの人がいるということは、社会との繋がりができるということでもあります。この年齢になっても自然と社会と繋がりを持って取り組めるというのは幸せだと思う今日この頃です。」
(おわり)
※1 瓶内二次発酵方式…スパークリングワインの製法の一つ。瓶の中に一次発酵を終えたスティルワインを入れ、ショ糖と酵母を再び入れて瓶の蓋を閉め、二次発酵させる。瓶の中で発生した炭酸ガスがワインの中に溶け込む。
編集後記
海外での暮らしへの憧れがモチベーションとなり、突如ワインの世界へ入った井上さん。ジョークを交えながら、終始ニコニコと今までの道のりを話してくださいました。長時間の取材を通して、私は「一期一会の精神でチャレンジする」ことの大切さを教えていただきました。
取材中、井上さんの相棒である市川さんはたてしなップルの歴史をお話してくださったり、リンゴ畑を案内してくださったり、リンゴジュースでもてなしてくださったり。大らかで陽気な井上さんと、きめ細やかな気遣いをされる市川さん。絶妙なコンビネーションのお2人が生み出すシードルとワイン、これからも楽しみにしています!
お土産に頂いた自社畑のリンゴ
この記事の著者 / 編集者
田口あきこ(日本ワインなび編集長)
ホームパーティが好きなことから、より良いおもてなしをするためにワインを学び始める。
2015年 ワインスクール『レコール・デュ・ヴァン』の講師に抜擢。
2018年 ワイナリー経営者を育成する学校『千曲川ワインアカデミー』にてブドウ栽培・醸造・ワイナリー経営について学ぶ。
2020年『日本ワインなび』を開設。
2021年 JETROに附置する農林水産省・食品の輸出・プロモーション機関の事業で日本ワインの認知業務に携わり、海外向けに日本のワイナリー紹介記事を執筆。
2024年より千曲川ワインアカデミー倶楽部公式HP『生産者ストーリー』執筆。
同年 北海道余市町登に3.4haの農地を取得し、vineyard開設中。
日本ワイン検定出題作成委員
LDV日本ワインLover講座主任
・ワインスクール『レコール・デュ・ヴァン』講師紹介ページ
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