日本ワインなび

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合同会社たてしなップルワイナリー
工場長 井上雅夫さんに学ぶ
「一期一会の精神でチャレンジする」
(全8回)

第6回「個体差を楽しめるアンセストラル方式の魅力」

掲載日:2022年12月13日

瓶詰のタイミングの難しさ

井上 「私が入社した時、たてしなップルのシードルは委託醸造で造られていました。それで委託醸造先にお願いしてどのような造り方をしているかを見せてもらいました。そしてアンセストラル方式(※1)を学びました。」

田口 「アンセストラル方式で造ってみて、どんなことを感じられましたか?」

井上 「アンセストラル方式は発酵途中で瓶詰するので、瓶詰するタイミングを見極めるのが難しいです。瓶内二次発酵方式だと一度スティルワインを造り、その後酵母と砂糖を加えます。1リットルあたり4グラム砂糖を入れてすべて発酵させると約1気圧のガスが発生します。だから24グラムで6気圧という計算がたちますが、アンセストラル方式は砂糖を加えないので、きっちりと計算通りにはなかなかいかないのです。」

田口 「どうやって瓶詰のタイミングを計るのですか?」

井上 「辛口・甘口それぞれガス圧のターゲットがあります。ターゲットから逆算してだいたいそれくらいの比重を見て瓶詰をします。うちは全て手作業なので、2日かけて瓶詰をやるのですが、初日の朝と2日目の夕方と比べるだけでも発酵度合に違いが出ます。瓶詰めした後に置く場所によっても発酵のスピードに違いが出てきます。」

田口 「ボトル差が出てくるということですね。」

井上 「アンセストラル方式の良さは個体差が出ることですね。ワインってそもそも個体差が許されるというか、個体差があった方が良いようなものじゃないですか。『私だけのシードル』という楽しみ方もできますよね。」

田口 「何本か買ってみてそれぞれの違いを楽しむのもいいですね。」

アンセストラル方式で造られるシードル(たてしなップルワイナリー)

火入れのタイミングにも手間をかけて

井上 「造りの話に戻りますが、火入れのタイミングも難しいです。瓶詰した後、辛口の場合は全部発酵させていますが、甘さを残すために発酵を止める時、うちは火入れをしています。それぞれ発酵の状態が違うので火入れするタイミングに違いがでます。」

田口 「見極めが難しそうですね。火入れのタイミングはどのようにして決めるのですか?」

井上 「14本入りのオレンジの箱にボトルを入れてあるのですが、そのうち1本は必ずガス圧をチェックしてから火入れを行っています。」

ガス圧を見ているところ(たてしなップルワイナリー)

リンゴ果汁のナチュラルな甘さ、優しさをアピールできる

井上 「手間もコストもかかりますが、アンセストラル方式だとリンゴ果汁の糖度のナチュラルさをアピールできます。それに、なんとなく優しい味わいだという感じがしますね。」

田口 「確かにそうですね。井上さんのシードルを飲んでみて私もそう感じました。」

井上 「ありがとうございます。アンセストラル方式だと、ガス圧が弱いという方もいますけど、それは残糖度にもよりますが、瓶詰めのタイミング次第です。要は瓶内での発酵期間が長ければ長いほど、基本、ガス圧も上がります。スティルワインを造っていた時には、発酵中に発生する炭酸ガスをそこまで意識したことはなかったのですが、シードルを造ってからは、もう炭酸ガスが気になって気になって、携われば携わるほどシードル造り、そしてワイン造りは面白いものだと改めて感じました。」

(つづく)

(※1)アンセストラル方式…スパークリングワインの製法の一つ。一次発酵が終わる前にワインを瓶に詰め、瓶内で炭酸ガスを発生させる。 田舎方式という呼び名もある。

この記事の著者 / 編集者

田口あきこ(日本ワインなび編集長)

ホームパーティが好きなことから、より良いおもてなしをするためにワインを学び始める。
2015年 ワインスクール『レコール・デュ・ヴァン』の講師に抜擢。
2018年 ワイナリー経営者を育成する学校『千曲川ワインアカデミー』にてブドウ栽培・醸造・ワイナリー経営について学ぶ。
2020年『日本ワインなび』を開設。
2021年 JETROに附置する農林水産省・食品の輸出・プロモーション機関の事業で日本ワインの認知業務に携わり、海外向けに日本のワイナリー紹介記事を執筆。
2024年より千曲川ワインアカデミー倶楽部公式HP『生産者ストーリー』執筆。
同年 北海道余市町登に3.4haの農地を取得し、vineyard開設中。
日本ワイン検定出題作成委員
LDV日本ワインLover講座主任
ワインスクール『レコール・デュ・ヴァン』講師紹介ページ
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