第2回「カリフォルニアのワイナリー経営8年目に訪れた転機」
掲載日:2022年12月13日
醸造技術トップクラスの国で醸造家を探す難しさ
田口 「井上さんはカリフォルニアのワイナリーの経営だけでなく、醸造もされていたのですよね?」
井上 「社長としてマネジメントに取り組んで8年目、1998年に醸造担当者が独立することになりました。それで代わりを探すことになったのですが、なかなか難しくて。アメリカではワイナリーの醸造家のステータスがすごく高いんですよ。」
田口 「その辺り、詳しくお伺いさせてください。」
井上 「良いブドウからじゃないといいワインはできない。でも、良いブドウを誰が醸しても美味しくなるかというと、それはちょっと違います。一般的にはブドウが命と言われますが、『ブドウが全てを決めてしまう』という流れとはちょっと違って、アメリカではワインメイキングという技術の方に重きをおいています。カリフォルニア大学デービス校の醸造科はフランスやイタリアからも学びに来るくらい、アメリカの醸造技術というのはトップクラスなのだと思います。」
田口 「それで代わりの醸造家を探すのも難しいわけですね。」
井上 「はい。優秀な醸造家はお金がかかります。私はマネジメントをやっていましたから、あまりにも人件費をかけるということはしんどいなと思いまして。予算に合う醸造家を色々と探しましたが、これという方がいませんでした。」
たてしなップルワイナリーでメルロを醸しているところ(2022年)
ワインメイキングにチャレンジする決意
井上 「私もそれまで仕込みを手伝っていて、面白いなと言う気持ちは持っていました。ワイナリーで働くようになって、当然ですがワインを飲む機会も多く、すっかりワイン好きになっていました。それで、あまり期待できないような醸造責任者を無理して雇うよりも、自分でやってみようかなと思いました。」
田口 「すごい決断ですよね?」
井上 「いえ、怖さを知らなかったのだと思います。」
シンプルなものほど難しい
井上 「ワイン造りってシンプルじゃないですか。でも実はシンプルなものほど難しい。卵焼きは卵を溶いて焼けば誰がやっても卵焼きになります。でも、ふっくらとして美味しい卵焼きにするには技術が要りますよね。」
田口 「仰る通りですよね。ワインという飲み物はできても、美味しいワインを造るには技術が必要ということですね。」
井上 「シンプルなものほど難しいというのはワインを造ってみてから痛感したことです。手伝っていた時はそんなに複雑じゃないと受け止めていたので、自分でもできると思ってしまったんですよね。」
(つづく)
この記事の著者 / 編集者
田口あきこ(日本ワインなび編集長)
ホームパーティが好きなことから、より良いおもてなしをするためにワインを学び始める。
2015年 ワインスクール『レコール・デュ・ヴァン』の講師に抜擢。
2018年 ワイナリー経営者を育成する学校『千曲川ワインアカデミー』にてブドウ栽培・醸造・ワイナリー経営について学ぶ。
2020年『日本ワインなび』を開設。
2021年 JETROに附置する農林水産省・食品の輸出・プロモーション機関の事業で日本ワインの認知業務に携わり、海外向けに日本のワイナリー紹介記事を執筆。
2024年より千曲川ワインアカデミー倶楽部公式HP『生産者ストーリー』執筆。
同年 北海道余市町登に3.4haの農地を取得し、vineyard開設中。
日本ワイン検定出題作成委員
LDV日本ワインLover講座主任
・ワインスクール『レコール・デュ・ヴァン』講師紹介ページ
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