第7回「私が造りたいシードル」
掲載日:2022年12月13日
アップルパイのような、芳醇でどっしりとしたシードルを造りたい
井上 「一般的にシードルとは、3~5度の低アルコールで微炭酸のものがフランスではけっこう多くて、お酒に強くない方でも飲みやすいから人気がある、というのが私の印象です。」
田口 「確かにそういう印象ありますよね。」
井上 「うちではアルコール度数が9度あって、アップルパイのような芳醇な味わいの、どっしりしたタイプのシードルを目指しています。3~5気圧くらいのガス圧で、スパークリングワインに負けないような飲みごたえのあるシードルを造りたいと思っています。」
田口 「井上さんのシードルを飲んだことがありますが、まさにその通りですよね。たっぷりとした旨味、黒糖のような香ばしさを感じました。」
井上 「シュール・リー製法(※1)というほどでもありませんが、少量の澱からもアミノ酸なども出ていると思います。完熟リンゴを使っているので、ボディが出ます。低温でゆっくり長く発酵させるのがこだわっているところです。瓶熟成もかなりさせてから市場に出すので、それもうまみや香ばしさにつながる要因かな。」
自社畑の完熟リンゴだからこそ可能な長期熟成シードル
井上 「それから、更に長期熟成できるようなシードルも造りたいと思っています。実際にやってみて、シードルも熟成がきくんだなと感じています。ヴィンテージのシードルも出せるようになったら面白いかなと。」
田口 「ヴィンテージのシードル、いいですね。長期熟成ができるのはリンゴの質がよいからでしょうか?」
井上 「まさにその通りです。ここは立科町、りんごの名産地。うちも自社リンゴ畑があって、そのまま食べても最高に美味しい完熟のりんごをベストなタイミングで絞って造ることができます。リンゴが持っている全ての要素を活用できる作れる環境にあります。」
アクセントを散りばめながら熟成、各要素が重合
井上 「シードルは速く回転して出すのが主流だと思います。青リンゴのようなシードルも素晴らしいと思いますが、うちは完熟したリンゴを活かすために瓶熟成をしています。そして長期熟成できるためにアルコール度数を上げ、更に芳醇なタイプを目指します。青リンゴ的な酸ではないけれど、酸もバランスよく入っています。だから重たすぎない。」
田口 「確かにこちらのシードルには心地よい酸がたっぷり溶け込んでいますよね。」
井上 「それから、リンゴの皮から出る若干の苦み、タンニン成分がすこし感じられるように心がけています。少しずつアクセントを散りばめながら熟成することによって、それぞれの要素が重合しながらバランスの取れたシードルを造れたらいいですね。立科町のリンゴとセットで出せるような、完熟のリンゴを連想させ、さすがリンゴの名産地立科町のシードル!と思ってもらえるような本格的なシードルを造っていきたいです。」
上空から撮影した自社リンゴ畑
(つづく)
※1 シュール・リー製法…仏語で「滓の上」の意。主に白ワインで用いられる。アルコール発酵後、滓引きせずに熟成させて、滓からアミノ酸などの旨味成分を引き出す方法。
この記事の著者 / 編集者
田口あきこ(日本ワインなび編集長)
ホームパーティが好きなことから、より良いおもてなしをするためにワインを学び始める。
2015年 ワインスクール『レコール・デュ・ヴァン』の講師に抜擢。
2018年 ワイナリー経営者を育成する学校『千曲川ワインアカデミー』にてブドウ栽培・醸造・ワイナリー経営について学ぶ。
2020年『日本ワインなび』を開設。
2021年 JETROに附置する農林水産省・食品の輸出・プロモーション機関の事業で日本ワインの認知業務に携わり、海外向けに日本のワイナリー紹介記事を執筆。
2024年より千曲川ワインアカデミー倶楽部公式HP『生産者ストーリー』執筆。
同年 北海道余市町登に3.4haの農地を取得し、vineyard開設中。
日本ワイン検定出題作成委員
LDV日本ワインLover講座主任
・ワインスクール『レコール・デュ・ヴァン』講師紹介ページ
・Facebook
・note