第8回「僕を奮い立たせてくれる夢」
掲載日:2021年9月21日
僕を奮い立たせてくれる夢
田口 上田さんの今後の夢についてお伺いできますか?
上田 実はナチュラルワインに詳しい方がいて、その方のワイン会に連れて行ってもらった時ものすごくショックを受けたワインがありまして、そのようなワインを自分で絶対に造ってみたいと思っています。
田口 どんなワインだったのですか?
上田 ジュラ地方のヴァン・ジョーヌ(※1)です。
田口 ヴァン・ジョーヌってクセがあるので好みが分かれますよね。ハマる人はハマる、という印象です。
上田 はい、ハマりました(笑)
田口 サヴァニャンをこちらで栽培するということでしょうか?
上田 はい、再来年サヴァニャンの苗がきます。予約できたのは500本だけなので年々少しずつ増やしていこうと思っています。苗を植えて実が付くまでに5年、樽に入れて6年掛かります。だから飲めるのは15年くらい先になります。
田口 長い年月がかかりますね。
上田 このワインを造るのは、自分を奮い立たせるためなんです。私は今53歳です。そのワインが飲める頃は生きているかどうかも分かりませんから。それができるまで頑張りたいと思っています。
田口 上田さんが手掛けるヴァン・ジョーヌ、楽しみです!
上田 ここはジュラと気候がだいたい同じなんです。雪がちょっと多いだけで。だから上手くいくんじゃないかとは思うんだけど。まあ、やってみないと!
僕にとってワイン造りとは
上田 仕事というか、人生ですね。仕事はきついけど楽しいです。こんなこと言うのもなんですが、ワイン造りって全然儲からないんです。好きじゃないとやってられない。
田口 ワイン造りは情熱ある生産者にのみに成し得られることだと理解しております。上田さんが「ワイン造りを好き」だと仰る理由って何でしょう?
上田 春先からずっと作業をして9月、10月にブドウを収穫する。剪定も醸造も年に1度しかできない。10年で10回しかワインはできないんです。だから毎年が新鮮で、それぞれの作業ごとに緊張感があります。出来上がったものが良かった時、「やったー!」という気持ちになるんです。
僕自身、お酒を楽しく飲むのが好きなので、みなさまにも美味しく楽しく飲んでいただけるワインをこれからも造りたいと思っています。
※1 ヴァン・ジョーヌ(vin jaune)…フランス語で「黄ワイン」の意。フランス東部のジュラ地方にてサヴァニャンというブドウ品種から造られる白ワインの一種。目減りしたワインの補充をせずに放置したままにするためワインの表面には産膜酵母が形成される。収穫から少なくとも6年目の12月15日まで長期の熟成期間が定められている。ワインは黄色みを帯び、独特の風味が生まれる。
編集後記
大きな成果を出し続けている上田さんに初めてお会いするまでは、どんな方だろう…と正直緊張が走りました。しかし、その緊張はいつの間にかすっかりほぐれ、取材が終わる頃にはすっかり上田さんのファンになっていました。一言でいうならば、上田さんは「自然体」。
自然体とは、柔道や剣道の世界において、「力を込めずに立つ基本の姿勢」という意味でも使われています。異常気象、獣害、病害虫に見舞われる時、上田さんはそういう姿勢で、取り乱さず冷静に対処しているのではないだろうか。
気取らず、気張らず、奢らず、「自然が大好きだから、その中に身を置いています」、「安心・安全をお届けしたくて」と、畑で微笑む上田さん。「ピノ・グリちゃん」「ピノ・ノワールちゃん」と、呼んでいる姿にはブドウへの愛情が溢れ出ていました。
また、従業員のみなさんも心地良さそうに仕事をされていた姿が印象深く心に残っています。自然体な人というのは、周りの人たちも自然体にしてくれるのですね。
長時間の取材を通して、私は「自然食品を頂ける有難さ」「自分らしく、自然体で生きる」ことの大切さを学びました。
上田さんのワインを通して、多くの方が笑顔になりますように。
(おわり)
この記事の著者 / 編集者
田口あきこ(日本ワインなび編集長)
ホームパーティが好きなことから、より良いおもてなしをするためにワインを学び始める。
2015年 ワインスクール『レコール・デュ・ヴァン』の講師に抜擢。
2018年 ワイナリー経営者を育成する学校『千曲川ワインアカデミー』にてブドウ栽培・醸造・ワイナリー経営について学ぶ。
2020年『日本ワインなび』を開設。
2021年 JETROに附置する農林水産省・食品の輸出・プロモーション機関の事業で日本ワインの認知業務に携わり、海外向けに日本のワイナリー紹介記事を執筆。
2024年より千曲川ワインアカデミー倶楽部公式HP『生産者ストーリー』執筆。
同年 北海道余市町登に3.4haの農地を取得し、vineyard開設中。
日本ワイン検定出題作成委員
LDV日本ワインLover講座主任
・ワインスクール『レコール・デュ・ヴァン』講師紹介ページ
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