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(全8回)

第6回「オーガニック栽培の苦労」

掲載日:2021年9月21日

ピノ・ノワールが全滅に

田口 オーガニック栽培をされている生産者のみなさん本当にご苦労されることが多いとお聞きしますが、上田さんの圃場ではいかがでしょう。やはり大変だと感じられますか?

上田 はい、大変です(笑)

田口 そうですよね…。

上田 特にワイン用ブドウは品種改良したものではなく、何百年も前から続いているクローンですからね。

田口 とりわけご苦労されたことはありましたか?

上田 2年目にワイン用ブドウを完全無農薬で栽培してみようと挑戦したことがありました。結果、ベト病にかかってしまい、葉っぱが1枚もなくなってしまいました。つまり全滅です。

田口 全滅の被害にあった圃場はどのくらいの広さだったのですか?

上田 4反歩くらいです。植えて2年目だったので殆んど実はついてなかったんですけど。でもあの時は泣きましたね。翌年からはJASで認められているボルドー液を使っています。もう凝りました…。


一度は全滅したピノ・ノワール畑、ボルドー液を使用することで克服できた

田口 ボルドー液だけでその後は特に大丈夫ですか?

上田 はい、大丈夫です。でも最初のうちはタイミングが難しくて、また少しベト病が出たりしました。今は撒くタイミングがわかってきましたので。病気が出ないようにうまくやっています。

田口 有機栽培をされていて、比較的栽培しやすい品種、栽培が難しい品種ってありますか?

上田 ピノ・ノワール、ピノ・グリ、GTの3種類しかまだ植えていない。大差はないですけど、やっぱりピノ・ノワールは手が掛かりますね。

田口 ただでさえ皮が薄くて病気にかかりやすいのに、それをオーガニック栽培するとなると大変ですね。

上田 やっぱり繊細ですからね。一番困ったのは、ピノ・ノワールの花弁が自然に取れず、それが灰カビ病のもとになってしまうことです。ブロワーを使って風で花弁を飛ばす生産者の方もいらっしゃいますが、うちではそこまで手が回らなくて。ピノ・ノワールは全てMV6というクローンなので、ブドウの実が密でくっついているので灰カビ病になりやすいんです。

田口 MV6は余市をはじめ日本の各所で評価が高い背景には、実はご苦労される面もやはり持ち合わせているということですね。

年々上昇している積算温度

上田 ところで近年では、気候の状態が変わってきて20年前と比べると栽培できる作物か変わってきているんです。

田口 温暖化の影響ですか?

上田 そうです。僕はセンサーで畑の積算温度を拾っていまして、こちらをご覧ください。
実測値が2017年は1155℃、2018年が1235℃、2019年が1445℃、2020年が1351℃、2021年は1400℃超えが確実です。

田口 こうして見ると年々、気温が徐々に上がっているのがよく分かりますね。


センサーによる積算温度実測値(上田さんより提供いただいたデータを一部抜粋)

上田 温度、湿度、日射量、全てわかります。このセンサーは出資してくれている株主さんの商品なんです。畑が色々離れた場所にあるので計10個設置してあります。ないと不便ですね。

田口 有機栽培の管理に大いに役立ちそうですね。センサーを設置するのがこの辺りでは標準なんですか?

上田 同じものを使っているのは3つの事業者さんのみです。大きな畑を持っているワイナリーさんでは、畑の場所によって条件が違うのでそれに合わせて設置されているようです。
昔はこの辺りで柿はできなかったのですが、最近では作れるようになってきました。ワイン用ブドウに関していえば、テンプラニーリョを植える方も人もいらっしゃいます。

(つづく)

この記事の著者 / 編集者

田口あきこ(日本ワインなび編集長)

ホームパーティが好きなことから、より良いおもてなしをするためにワインを学び始める。2015年にワインスクール『レコール・デュ・ヴァン』のインストラクター養成講座にて講師に抜擢。
2018年 ワイナリー経営者を育成する学校『千曲川ワインアカデミー』にてブドウ栽培・醸造・ワイナリー経営について学ぶ。
2020年『日本ワインなび』を開設し、編集長として運営を行う。
2021年 JETROに附置する農林水産省・食品の輸出・プロモーション機関の事業で日本ワインの認知業務に携わり、海外向けに日本のワイナリー紹介記事を執筆。
日本ワイン検定 出題作成委員
ワインスクール『レコール・デュ・ヴァン』講師紹介ページ
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