日本ワインなび

日本ワインの魅力を総合的に発信するサイト

日本ワインを支える人たちを訪ねて
心熱きプロフェッショナルに学ぶ人生の道しるべ

ドメーヌ・モン代表 山中敦生さんに学ぶ
「人に優しく、自分にも優しく」
(全7回)

第2回「ピノ・グリを選んだ理由」

掲載日:2024年2月24日

ピノ・グリの花

禅問答から始まったブドウ品種選び

田口「山中さん、自社畑ではピノ・グリにこだわってらっしゃるじゃないですか。先日、ドメーヌ・モンのフラッグシップワインであるDomGris(※1)を頂く機会がありました。 独特のスタイルですよね。」こんなに美味しいピノ・グリが世の中にあるんだ、と衝撃を受けました。」

山中「ありがとうございます。」

田口「ピノ・グリに目をつけられた理由を教えていただけますか?」

山中「曽我さん(※2)のところに(研修生として)入る時あたりから、『なぜ北海道余市でワイン造りを目指しているのか?」「どんなワインを造りたい作りのか?」という質問を、畑作業をしながら毎日のように禅問答のように投げかけられて。やはり曽我さんがよく仰るように、日本は雨が多い国で、繊細なブドウの方が 日本らしさを表現しやすい。その中で、曽我さんはピノ・ノワールを選びました。その中に繊細さがあると複雑さ、余韻、旨味というのは、わかりやすいし、日本人の好みでもあります。」

田口「確かにそうですね。」

山中「自分もピノ・ノワールに興味はありましたが、余市は海が近いので、貴腐が出やすいんです。ただでさえ日本は雨が多くてピノ・ノワールの色がちょっと薄くなるのに、ボトリティス・シネレア菌(※3)は脱色酵素を持っているのでより色が薄くなってしまう。」

田口「海が近いと貴腐菌がつきやすくなるので赤ワインの色が薄くなってしまう、ということですね。」

山中「はい。あとはちょっと貴腐香もついてしまうので、ピノ・ノワールの純粋な香りを保つために貴腐菌がついているブドウは分けたい、という理由などもあって曽我さんは分けています。でも分けると簡単に言っても大変な作業です。曽我さんのところは収穫時期にボランティアスタッフが総勢400人くらい来るんですよ。」

田口「400人も来るんですか!?大勢の方が手伝ってくれるから、貴腐菌を分けることが可能になるということですね。」

山中「2週間ちょっとの間に1日60人くらい。20人、30人の日もありますし、重複する方もいますが、トータル400人分を集めています。そういうのを研修時代にも見ているので、これは(自分には)ちょっと無理だなって。」

田口「簡単に集められる人数ではないですよね。」


ドメーヌ・モンのピノ・グリ畑

ピノ・グリを選んだ理由

山中「それでピノ・ノワールじゃなくて他に似た品種で面白いのは何かな?と思った時に、ピノ・グリがいいかなと。ピノ・グリはピノ・ノワールの突然変異です。曽我さんのブラン・ド・ノワールもヒントになりました。ブラン・ド・ノワールだと貴腐菌がついているのでアルコール度数が高くなる。 それで、(味わいに)ちょっとパンチがあるわけです。

ピノ・グリだったら、収穫を適正にすればアルコール12度くらいになりますし、ある程度、貴腐菌がついても脱色酵素とかあまり関係ないわけです。それで貴腐が多少出ても、(貴腐がついているブドウとついていないブドウに)分ける作業をしなくてもいいんです。

一緒に収穫しても、全部に貴腐がついてしまうわけではないので、逆にハチミツ香が出て面白い感じになるのかなと思い、ピノ・グリを選びました。もともとアルザス系のがワイン好きだったというのもあるんですけど、一番の理由はそういう日本らしさというのを表現しやすい品種ということです。」

田口「禅問答から始まって、そういう深い理由があってピノ・グリを選ばれたのですね。実際にピノ・グリでワインを造られて、思った通りのところにバシッと決まった感じですか?」

山中「自分が描いていた味わいになりつつあります。まだ100点では全然ないんですけど。」

(つづく)

※1 Dom Gris…ドメーヌ・モン自社畑のピノ・グリで醸造したワイン。同ワイナリーのフラッグシップワイン
※2 曽我貴彦…北海道余市郡余市町を代表するワイナリーの一つであるドメーヌ・タカヒコ代表
※3 ボトリティス・シネレア(貴腐菌)…一定のコンディションが揃わず、湿度の高い環境でこの菌が発達すると、『灰色カビ病』という病気を引き起こす。しかし条件が揃ったところで、成熟したブドウの果皮に付くと貴腐ワインの元となる貴腐ブドウを造り出す。

この記事の著者 / 編集者

田口あきこ(日本ワインなび編集長)

ホームパーティが好きなことから、より良いおもてなしをするためにワインを学び始める。
2015年 ワインスクール『レコール・デュ・ヴァン』の講師に抜擢。
2018年 ワイナリー経営者を育成する学校『千曲川ワインアカデミー』にてブドウ栽培・醸造・ワイナリー経営について学ぶ。
2020年『日本ワインなび』を開設。
2021年 JETROに附置する農林水産省・食品の輸出・プロモーション機関の事業で日本ワインの認知業務に携わり、海外向けに日本のワイナリー紹介記事を執筆。
2024年より千曲川ワインアカデミー倶楽部公式HP『生産者ストーリー』執筆。
同年 北海道余市町登に3.4haの農地を取得し、vineyard開設中。
日本ワイン検定出題作成委員
LDV日本ワインLover講座主任
ワインスクール『レコール・デュ・ヴァン』講師紹介ページ
Facebook
note

この記事をシェアしませんか?

LINE
日本ワインを支える人たち
株式会社ヴィラデストワイナリー代表取締役 兼 日本ワイン農業研究所株式会社「アルカンヴィーニュ」取締役 小西 超さんに学ぶ「志を高く持って生きる」(全8回) 株式会社テールドシエル代表取締役 池田岳雄さんに学ぶ 「自分の意思を貫く生き方」(全10回) ヴィンヤード『carraria(カラリア)』 トラストアンドアソシエイツ株式会社 代表取締役 中村大祐さんに学ぶ「自分の人生を大切に生きる勇気」(全7回) ヴェレゾンノート 東山ワイン研究所合同会社 櫻山記子さんに学ぶ「如何なるハードルにも正面から挑むタフな精神力」(全6回) 駒園ヴィンヤード株式会社 取締役社長 近藤修通さんに学ぶ「愛情を持って、謙虚に相手の声に耳を澄ます」(全10回) 株式会社ジオヒルズ ジオヒルズワイナリー醸造責任者 富岡隼人さんに学ぶ「未来へ繋げる視野と行動力」(全7回) 農地所有適格法人 株式会社 自然農園グループ ドメーヌ・イチ 代表取締役 上田一郎さんに学ぶ 「自分らしく、自然体で生きる」(全8回) 株式会社ショーナン 代表取締役 田中利忠さんに学ぶ「チャンスを受け入れる力・夢を描く力・実現する力」(全5回) マンズワイン株式会社 マンズワイン小諸ワイナリー醸造責任者 西畑徹平さんに学ぶ「初志貫徹する真っ直ぐな心」(全8回) 前小田原市長 加藤憲一さん率いる小田原ワインプロジェクトの皆さんに学ぶ「人の力」(全6回) 合同会社たてしなップルワイナリー工場長 井上雅夫さんに学ぶ「一期一会の精神でチャレンジする」(全8回) 日本ワインを支える人たちを訪ねて 国登録有形文化財 児玉家住宅 児玉寧さんに学ぶ「逞しく生きるための術」(全6回) テールドシエルワイナリー 栽培醸造責任者 桒原一斗さんに学ぶ「謙虚な姿勢で、一生勉強」(全8回) 有限会社萬屋酒店 高橋 憲・里栄ご夫妻に学ぶ「造り手の気持ちを伝えたい」(全8回) Domaine Bless 本間裕康・真紀ご夫妻に学ぶ「夫婦で力を合わせて『あったらいいな』を実現」(全9回) ドメーヌ・モン代表 山中敦生さんに学ぶ「人に優しく、自分にも優しく」(全7回)
テイスティング 日本ワイン×お家レシピ 日本ワインの基礎知識