第7回「年間を通じたイベント開催や会員制度」
掲載日:2020年8月16日
中村 いくら高級で美味しいワインでも、接待となるとなかなか味わえませんよね。そうではなくて、価値観の近い仲間と飲んだら、有名ワインでないとしても美味しく感じられる。そういうところがあるなぁと思うので、ここには同じ人たちが繰り返し来くる、その人たちの輪が楽しければ、来た人も安心して楽しめるのでまた来たくなると言うことで、会員組織ということをやっています。それを、carraria associates(カラリア・アソシエイツ)と名付けました。
田口 ファンを作るという意味でもいいですね。
中村 会員の種類を何種類か設けて、会員になって頂いた方にはお金を少しいただきます。特典としてワインを割引販売したり、ここの施設(カラリアハウス)の割引宿泊や、試飲会をやったりとか、会員に向けたことを色々とやっています。
田口 会員の方もきっと楽しいと思います。
中村 7月から翌年の6月までの1年間をサイクルとして、毎月のようにイベントをやっています。たとえば4月は苗植え、秋には収穫とか。どなたでも参加できるオープンなイベントを開催して、気に入っていただいたら会員になっていただくということもやっています。『私が私に帰る旅』という、ブドウ畑での作業と、散策などのプラスアルファがあるイベントもやっています。実は、会員の方にはワインが詳しい方が少なくて、ワインを飲まないという人もいるくらいなんです。
田口 すごいですね。企画に魅力があるから、会員の方が増えているんですね。
中村 まあ、試行錯誤という感じです。
田口 東京でのイベントなどもやられるんですか?
中村 そうですね。昨年はワインとアロマのマリアージュなんてイベントを東京でやりました。基本的には一年の予定を決めてやっているんですけど、面白い企画が浮かんだら、プラスアルファでやっています。また、今年は新しくワイン講座を企画しました。ワイン講座を連続して7回。東京での座学ですが、立科でのブドウ栽培を体験できるオプション付きの講座です。
田口 今度、私の講座にも登場していただこうかな。
中村 いいですね。
ワイナリーの立ち上げに必要な力とは?
田口 会社を辞め、ご自身のワイナリーを立ち上げ、様々な付加価値にチャレンジされている中村さんですが、読者に向けて、ワイナリーの立ち上げに必要な力を伝えるとしたら、どういうことが言えますか?
中村 私はまだそんなことを言える立場にはありません。ただ、自分なりの整理をしています。一般的に、ワイナリーの立ち上げに向けて大切なことは、ブドウ作り。品質の高いワインは、品質の高いブドウからしか生まれない。なので、ブドウ栽培をしっかりやることが最初で、次に醸造、最後に販売だという意見があります。一方で、売れないと話にならないんだから販売力、経営戦略がより重要だという話も聞いたことがあります。両方とも理にかなっていると思います。
田口 中村さんご自身は実際どのように進められているのですか?
中村 私はちょっと特殊で、全部いっぺんにやってきたわけです。立科町の畑を引き継いで、ブドウ栽培をしながら、生き残り戦略を考えながら、すぐにワインのファーストヴィンテージの販売がやってきますと。その時にどういうことが起こったかと言うと、いろんな人の応援です。ワインのラベルのデザインも僕が作りますよと言ってくれた方がいましたし、家の修繕も叔父や知人が紹介してくれた方がやってくれた。ピザ窯だって東京の友人が作ってくれた。それって精神的な支えですよ。
田口 失敗や苦労もたくさん経験されて。
中村 すべてが初物。50歳前にして初めて草刈機を買いました。大切な苗を買って植えたら大量に枯らしてしまったり、草刈機に乗っていたら泥にはまって動かなくなってしまったり。土壌分析をしたのはいいけど結果をどう見ていいのかも分かりませんみたいな(笑)。
ワイナリーの道は、時間軸を加味した「コマ」なのではないか
中村 私が考えるワイナリーへの道筋とは、こういうことなんじゃないかというのがありまして、 技術を軸に、資金と販売力。これが必要なんじゃないかな。ワイナリー設立は、それまでの延長線上にないちょっとした段差があって、それを乗り越える様々なことが必要。そして、ワイナリー設立はゴールではなくて、このコマを永続的に回せるためには、その後もバランスを取りながら上手くやっていくことが必要なのかなと思っています。
田口 人生100年時代とか、ライフシフトといったこともよく耳にしますね。
中村 そうですね。ライフシフトというキーワードで、取材を受けすることもあります。確かに私はサラリーマンから農業に転じ、東京から地方に軸味を移しましたので、まさにライフシフトしたということだと思います。もっと言えば、今この時が大事、今を大切にする生き方、そこにライフシフトしようとしているのかも知れません。
私のように生き方を大きく転換した例は珍しいのでしょう。ブドウ栽培に興味がある、地方で暮らすことについて考えている、或いは定年退職後に農業をやってみることについて関心がある、といった方にお会いすることもあります。私はそれについてどうのこうの言える立場ではありませんが、実体験をお話しすることくらいはできますので、お気軽にご連絡ください。
(おわり)
編集後記
目の前に突如現れた条件を引き継ぎ、ヴィンヤードを始められた中村さん。彼への長時間のインタビューを終えて、「自分の人生を大切に生きる勇気」と「付加価値によって現状を打破する企画力の大切さ」の二つの大切なことを教えていただきました。
日本ワインなびでも、「ワインに興味のある方」にターゲットを絞らず、違うチャンネルからユーザーを開拓するサポートを積極的に行うことで、中村さんのワインおよびワイナリーの魅力がより多くの方に伝わるアクションを起こしていければと思っています。
carraria(カラリア)は、 「轍(わだち)」「道」 などを意味するラテン語。「career」(キャリア) の語源といわれる言葉です。ここに来る方々の轍であればいいな、そんな風に仰っていたのが鮮明に思い出されます。
中村さんのワインについて
中村さんのワインは、アルカンヴィーニュに醸造を委託している「familia」と「opportunity」の二種。いずれもしっかりとした酸味が特徴の白ワイン。ラベルは立科町の町木である白樺をモチーフにしているそうです。
「familia(家族)」に描かれている5つのシャルドネの粒
一番大きい粒は中村さんを、少し離れた四粒は離れて暮らすご家族を表しているそうです。
2020年秋の新しいヴィンテージの発売に続いて、2021年初頭にはシャルドネを使った所謂オレンジワインをリリースされるそうです。
http://trustassociates.co.jp/wine-product/
この記事の著者 / 編集者
田口あきこ(日本ワインなび編集長)
ホームパーティが好きなことから、より良いおもてなしをするためにワインを学び始める。
2015年 ワインスクール『レコール・デュ・ヴァン』の講師に抜擢。
2018年 ワイナリー経営者を育成する学校『千曲川ワインアカデミー』にてブドウ栽培・醸造・ワイナリー経営について学ぶ。
2020年『日本ワインなび』を開設。
2021年 JETROに附置する農林水産省・食品の輸出・プロモーション機関の事業で日本ワインの認知業務に携わり、海外向けに日本のワイナリー紹介記事を執筆。
2024年より千曲川ワインアカデミー倶楽部公式HP『生産者ストーリー』執筆。
同年 北海道余市町登に3.4haの農地を取得し、vineyard開設中。
日本ワイン検定出題作成委員
LDV日本ワインLover講座主任
・ワインスクール『レコール・デュ・ヴァン』講師紹介ページ
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