第6回「特徴のあるワイナリーとして、事業基盤を確立するために」
掲載日:2020年8月16日
田口 ご縁と決断の上に、この場所が生まれたんですね。
中村 決断の背後には、ワインの付加価値について自分なりの考えがあります。ブドウは立科町が植えたわけですし、ワインは委託醸造なので、ワイン自体に付加価値を求めるには限界があるとまず考えました。ブドウ畑を引き継いだ途端に、いきなり1000本ものワインができるという現実がありましたから。著名な方だったらあっという間に売れてしまう本数だと思うんですが、この前までサラリーマンをやっていた人脈もない私がどうやって売るんですか…? ということです。酒販免許すらありませんよという状況の中で。
田口 そこで、差別化を考えたのですね。
中村 早めに事業基盤といいますか、差別化要素を定める必要があるだろうなと考えたんです。
付加価値〜ワインに“想い出”という味わいを
中村 「あそこのワインは美味しくて早く飲みたいよね」みたいな、リリースをしたらすぐ注文が入る、そういう風にできればいいなと思いますが、簡単にはいきません。なので、それはちょっと後回しにして、まずは「提供の仕方」に付加価値をつけて、そこに自分らしさを出していこうと、いうふうに考えたんです。
田口 なるほど、すばらしいですね。
中村 ワインの付加価値って何なのかと考えた時に、日本のワイン消費量は年間一人当たり5本程度ではないかと思います。多くの人はブドウ品種を知らないどころか、ワインをそれほど飲まないわけです。その少ない消費量も、ごく少数のワイン好きがたくさん飲んでという数字だと思うんです。それ以外の方は、スーパーなどでコストパフォーマンスの良いものを買っているというのが、現実かなと。
そういう中で重視したのは、「誰と飲むのか」と「どんなワインなのか」ということです。「誰と飲むのか」というのは、家族や安心できる仲間ということですね。「どんなワインなのか」というのは、作り手を知っているとか、ブドウ畑に行って作業を手伝ったとか、知っている人が作っているとか、そんな背景が大事なのではないかと思ったわけです。もちろん味が伴っていることが前提で、プラスどんなワインなのか。誰と飲むかというマリアージュも大切だよなぁということを考えて、ワインに「想い出」という味をつけようと。
田口 「何を飲むのかより誰と飲むか」、私の受講生の方々とのワイン会でよく耳にするキーワードです。(中村さんの資料を観ながら)これはイベントの写真ですね。
中村 はい、実際に私のブドウ畑に来てもらって、少し作業をしていただきました。ひと汗かいて、BBQをやってですね、夕方温泉に行って帰ってきて、スパークリングを開けたところですね。ブドウ畑で夕陽を見ながら乾杯しているところです。
田口 素敵ですねえ。
中村 そうするとやっぱり、(ワインに)想い出が入るんですよね。また収穫のときも来てね、とか。ワインができたら味わってみてね、と。そういう想い出の情景をワインに入れていこうと考えたわけです。
8月にはワインを片手に 屋外で映画鑑賞
中村 これは、一昨年にやった映画会です。あそこの壁をスクリーンにして、配給会社から映画を借りてきてちゃんとやったんですよ。
田口 すごいなあ…。
中村 映写装置や音響設備も全部借りてました。ゆったりとした気分の中で楽しんで頂くには、誰もがちょっと知っていて、込み入った内容でないもの、それでいて雰囲気のあるものがいいかなあと考えて、カサブランカにしました。「君の瞳に乾杯」という有名なシーンに合わせてワインをサーブしたりして。
(つづく)
この記事の著者 / 編集者
田口あきこ(日本ワインなび編集長)
ホームパーティが好きなことから、より良いおもてなしをするためにワインを学び始める。
2015年 ワインスクール『レコール・デュ・ヴァン』の講師に抜擢。
2018年 ワイナリー経営者を育成する学校『千曲川ワインアカデミー』にてブドウ栽培・醸造・ワイナリー経営について学ぶ。
2020年『日本ワインなび』を開設。
2021年 JETROに附置する農林水産省・食品の輸出・プロモーション機関の事業で日本ワインの認知業務に携わり、海外向けに日本のワイナリー紹介記事を執筆。
2024年より千曲川ワインアカデミー倶楽部公式HP『生産者ストーリー』執筆。
同年 北海道余市町登に3.4haの農地を取得し、vineyard開設中。
日本ワイン検定出題作成委員
LDV日本ワインLover講座主任
・ワインスクール『レコール・デュ・ヴァン』講師紹介ページ
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