第3回「最初の問題、場所について」
掲載日:2020年7月22日
中村 私にとっては、場所選びが最初の問題でした。ブドウ栽培にふさわしい場所ってどこなんだろうかと。本来、そもそも作りたいワインがあって、それにはこのブドウ品種、それにふさわしい気候や土壌といった感じで、逆算して場所選びをするということじゃないかと思うんですよね。でも、お話ししたように、私には作りたいワインありきということではなかった。他にも論点はあります。例えばワイナリーを設立するとしたら?と考えても、これから発展する地域なのか、既にワイナリーがたくさんある場所がいいのか、とかね。
田口 実際に構えるとなると、選択肢は限りないですよね。
中村 そうなんです。田舎暮らしをしたいのだから、永住できないと困るよなあとか。眺望、自然環境も大事だし、移り住んだはいいけど、10年で消滅都市になってしまうみたいなのだと困っちゃう。ある程度の将来性がないと厳しいなあ。そんなこともまで考え出すと、どうやって場所を選ぶのか?場所選びだけで何年もかかってしまう、、、とね(笑)
田口 悩みはつきない…。
中村 場所探しをしながら栽培や醸造の経験を積み重ねる。時間もかかるし、4人を扶養する身分では限界がある。だから、(ヴィニュロンになるのは)やっぱり無理かな、当初から考えていた会社員生活に戻るべきかな、と思ったんですよ。
田口 一度、無理だと思われたこともあったのですね。
舞い込んだ急展開「長野県北佐久郡立科町」
中村 だけど、(アカデミーに通い)それだけ厳しいということが分かったので、むしろ、今しかないなとも思ったんです。こんなに大変な事を、会社を辞めて65歳頃から始めることは、きっとないだろう。「now or never」。今でなければまたと機会はない。自分の決断が失敗だったとしても、人生の最期を迎えるとき、やらなかった後悔ではなくやって後悔する方を選ぼう。そう思って、やってみようと決心をしたんです。
田口 それはすごい決心だったと思います。それで、場所のお話になるんですね。
中村 そうです。そこで重視したのは、自宅のある東京からの距離と、仲間の存在です。それで、場所は千曲川ワインバレーに決めて探そうと。
田口 仲間がいたから。
中村 そう決めたのが11月くらいです。で、ちょうどそんな時に、立科町がやっている500本くらいのブドウ畑があって、引き継ぐ人を探しているという話を紹介してもらったのです。
田口 そんなことがあるんですね。アカデミーに通っていたことが奏して、舞い込んできたご縁ということですよね。
中村 ええ、だけどまぁ、そういうのはやっぱり、造りたいワインがあって、逆算して決めていくことだと思っていたので、じゃぁ「やります」「やらせてください」と簡単な話ではないかなあと。
田口 実際に決断するまでには想像以上の長い道のりがあるのですね。一度覚悟を決めたら、簡単には引き返せないですものね。
(つづく)
この記事の著者 / 編集者
田口あきこ(日本ワインなび編集長)
ホームパーティが好きなことから、より良いおもてなしをするためにワインを学び始める。2015年にワインスクール『レコール・デュ・ヴァン』のインストラクター養成講座にて講師に抜擢。
2018年 ワイナリー経営者を育成する学校『千曲川ワインアカデミー』にてブドウ栽培・醸造・ワイナリー経営について学ぶ。
2020年『日本ワインなび』を開設し、編集長として運営を行う。
2021年 JETROに附置する農林水産省・食品の輸出・プロモーション機関の事業で日本ワインの認知業務に携わり、海外向けに日本のワイナリー紹介記事を執筆。
日本ワイン検定 出題作成委員
・ワインスクール『レコール・デュ・ヴァン』講師紹介ページ
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