第3回「皆が栽培しない品種だけれど」
掲載日:2021年5月22日
東山圃場のネッビオーロの芽吹き
ネッビオーロを栽培してみて
田口 ブドウ品種は独特なものを植えられていますよね。ネッビオーロを栽培されている方、日本ではかなり少ないと思うのですが…。
櫻山 代表の中川がバローロとかバルバレスコが好きなんです。私たち二人ともイタリアのワインが好きで。だからサンジョベーゼやバルベーラなども植えています。実は私は当初、日本では美味しい赤ワインをつくるのは無理だと思っていました。でもシャトーメルシャン椀子ワイナリーのシラーを飲んだ時に新鮮な驚きがあったんです。フランスでもなく、オーストラリアでもなく、まさしく日本のテロワールならではの、クールクライメットシラーの美味しさに、日本での赤の可能性を感じました。そして、ネッビオーロでもそんな可能性があるのでは、と。
田口 ネッビオーロを実際に栽培してみていかがですか?
櫻山 ネッビオーロは栽培も大変ですけど、出来上がってからも熟成に時間がかかる、お金のかかる品種ですね。糖度も上がりますし、酸もタンニンも高い。熟成ポテンシャルも高いと思います。でもそこまで熟成させてからリリースというわけにもいかないので、やはりちょっと酸とタンニンが強い。私たちはそこも大好きなんですけどね。苦手な人もいるけど、ファンも多い。「変態ワイン」と呼ぶ人もいるくらい(笑)
田口 変態ワイン?
櫻山 はい、そう呼ばれています。みなさん、愛情を込めてそんな風に呼んでくださっているといいなぁ(笑)
田口 きっとみなさん、愛情と親しみを込めてそう仰るのだと思います。
櫻山 ありがとうございます。今までは、「何でみんなネッビオーロをやらないのかな?」と思ってましたけど、ようやくその意味が分かりました。そういう大変な品種ではあるんですけど、収穫の時期につまんで食べてみると、ネッビオーロはどのブドウより美味しいんです。糖度が24度くらいまで上がるのに、酸もしっかり!これをワインにしたら美味しいんだろうなと思うわけです。
田口 ヴェレゾンノートさんのネッビオーロ、飲んでみたくなりました!
看板ワイン
田口 ヴェレゾンノートのさんのHPで拝見しましたが、「Experiece」というネッビオーロとカベルネ・ソーヴィニョンのブレンドワインがありますよね?
櫻山 はい、ファーストヴィンテージから造っているワインです。うちの看板ワインになりつつあります。
田口 ネッビオーロとカベルネ・ソーヴィニヨンというのは面白いブレンドですよね?
櫻山 はい。スーパータスカン(※1)みたいな型破り的な、日本だからできる新しいブレンド、新しい味わいを造っていきたいなと思っています。まあ、あまり考えられない組み合わせですよね。これからシラーもできるので、どうやってブレンドしていこうかな。
田口 このセパージュはスーパータスカンにヒントを得ているわけですね。ところで、Experieiceはワインジャーナリストにも好評価だったと聞きましたが?
櫻山 鹿取みゆきさん(※2)がジェイミー・グッド氏(※3)を長野に連れてきてくださったときにうちの2つのワインを飲んでいただきました。Experienceは、長野県の企画でコメントのビデオ撮影をする時に飲んでいただいて、「クレイジーな組み合わせだけど、素晴らしいワイン」だと仰っていました。笑えますね。Presence(東山産カベルネ・ソーヴィニョン100%)は東御ワインチャペルで試飲していただき、点数もつけていただきました。
田口 何点だったんですか?
櫻山 なんと91点も頂いて。
田口 それは凄い快挙ですね!
ヴェレゾンノートの看板ワインになりつつある「Experience」
都会の生活から地方での生活へ
田口 櫻山さんはもともと浅草でいわゆる都会の生活をされていて、2015年から突如、長野県にお引越しされてきたわけですよね。長野で暮らしてみて、メリット、デメリット、色々あると思うのですが、その辺りはどう感じられましたか?
櫻山 長野に越してきて、最初はネオンがないのが寂しくて(笑)以前は駅前に住んでいたのでまだ良かったのですが、今は山の上に住んでいるので、毎日家で飲まないといけないですね。浅草で暮らしている時は、寝巻で飲みに行ったこともあるくらい、身近に行きつけのお店がありました。
田口 寝巻で飲みに行く…?
櫻山 はい、「コート脱いだら寝巻」みたいな。毎日楽しかったですね。
田口 では、デメリットは「寝巻で飲みにいけなくなったこと」というわけですね(笑) ではメリットは何でしょう?
櫻山 どこに行っても絶景!そしてどこに行っても温泉がある。だいたい30分くらい走れば観光地に行ける。
(つづく)
※1 スーパータスカン(スーパートスカーナ)…イタリアのワインは原産地呼称制度により、各地で使用するブドウ品種等についてルールが詳細に定められており、それらのルールを守ったワインのみが原産地を名乗れる。トスカーナ州ボルゲリ地区(イタリア)では、規則や伝統にとらわれず、国際品種のブドウを用いるなど自由な発想でワインを造る生産者が現れた。それらのワインは格付上はテーブルワインに属していたが、あまりの高品質さに世界中から人気を博し、「スーパータスカン」と呼ばれ、その価格は原産地呼称ワインを上回るようになった。そのため、カベルネ・ソーヴィニヨンなどの国際品種を使用したボルゲリ地区のワインはその後、原産地呼称を名乗れるように法律が変わった。そのため、「法を変えたワイン」としても知られている。
※2 鹿取みゆき…一般社団法人日本ワインブドウ栽培協会代表理事、信州大学特任教授、フード・ワインジャーナリスト。
※3 ジェイミー・グッド…英国のワインジャーナリスト。世界最大のワインコンペティション「インターナショナル・ワイン・チャレンジ(IWC)」の共同審査委員長。
この記事の著者 / 編集者
田口あきこ(日本ワインなび編集長)
ホームパーティが好きなことから、より良いおもてなしをするためにワインを学び始める。
2015年 ワインスクール『レコール・デュ・ヴァン』の講師に抜擢。
2018年 ワイナリー経営者を育成する学校『千曲川ワインアカデミー』にてブドウ栽培・醸造・ワイナリー経営について学ぶ。
2020年『日本ワインなび』を開設。
2021年 JETROに附置する農林水産省・食品の輸出・プロモーション機関の事業で日本ワインの認知業務に携わり、海外向けに日本のワイナリー紹介記事を執筆。
2024年より千曲川ワインアカデミー倶楽部公式HP『生産者ストーリー』執筆。
同年 北海道余市町登に3.4haの農地を取得し、vineyard開設中。
日本ワイン検定出題作成委員
LDV日本ワインLover講座主任
・ワインスクール『レコール・デュ・ヴァン』講師紹介ページ
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