第5回「甲州・MBAの隣にメイヴが載ることを目指して」
掲載日:2022年2月10日
2021ヴィンテージのエチケット
皆の夢を乗せ、各地で栽培されるメイヴ
田口 大学や研究機関だけでなく、メイヴは全国で栽培され始めているそうですね?
田中 (地図を指しながら)関東だけでもこれだけ広がっているんです。例えば 小田原城の近くに豊臣秀吉が小田原攻めをした時の一夜城があって、近隣の耕作放棄のミカン畑を開墾してメイヴを700本植えている地元プロジェクトがあります。
小田原市長を務められていた加藤憲一さんが「小田原ワインプロジェクト」を立ち上げて、FBグループに約350名が登録、共同作業には多いときで100名以上が参加してメイヴを栽培しています。メイヴは 魚介類と合うので 小田原の早川漁港から上がった 魚介類と合わせようと考えているそうです。
田口 楽しいマリアージュになりそうですね。
田中 それから、関東でいえば千葉県内の漁業協同組合がワイン造りを計画しています。 伊勢海老とかタコがたくさん獲れるところです。魚介に合うワインを漁協が造ってマリアージュのようなことを自分たちでやりたいそうです。
それから、柏市の米農家の方もメイヴを栽培しています。 3年目にして2021年は100kg収穫できました。茨城県つくば市のTsukuba Vineyardでもメイヴを栽培しています。
田口 田中さんのホームグラウンドではどれくらい栽培されているのですか?
田中 藤沢市内、茅ヶ崎市内、寒川町内で合わせて2haの畑でメイヴを栽培しています。
田口 湘南で醸造所を開く際にも、全国各地の有名な醸造家や有力者の方たちが手伝ってくれそうで安心ですね。
田中 うちの社員をそういう方々のところで研修させて頂いているところです。 彼を醸造家に育てようと思っています。
メイヴの栽培地を示したマップ(2021年12月現在)
製造関係企業と町工場と共にタンクづくり
田中 それから、うちはものづくり系の会社なので、地元の製造関係と町工場と一緒になって「ワイン醸造用のステンレスタンクを作ろう」という話をしています。 日本の多くのワイナリーは国産のタンクがないので、全てフランス、イタリア、ドイツ等から輸入しているんですよ。
田口 確かに国産タンクは聞いたことがないですね。
田中 それで藤沢市内の町工場の方達と一緒に「地域のメーカーを目指そう」と思っています。 最初は100〜200リットルくらいの小さいものを造ろうと思っています。 外国のものを買うのもいいのですが、やはり自分達で作らないとノウハウがたまらないじゃないですか。例えば瓶詰機が壊れたり電気が入らなくなった時に保守を呼べないですよね。
田口 海外から保守を呼んだら時間がかかりますものね。
田中 今はコロナ禍ですから、保守が来ても成田で2週間の隔離も必要です。そんなことをしていたらブドウが腐ってしまいます。でも国内に保守がいれば、その日のうちに駆けつけて治せます。北海道とか沖縄だったら翌日に行けますからね。
田口 国内メーカーだったらより安心して使えますね。しかし、開発費などかなりかかりそうですね?
田中 開発費は国の補助金が活用できます。タンクができて、もし売れなくても藤沢市内に建設予定の醸造所でも使えますし、2〜3年後には沖縄県内にも醸造所を建てる計画もありますからそこでも使用できます。
甲州・MBAの隣にメイヴが載ることを目指して
田口 日本全国・海外でのワイン造り、そしてタンクの製造まで、夢が広がりますね。
田中 はい。今後も皆さんから「ああした方がいい、こうした方がいい」というアドバイスを頂けると助かります。お爺ちゃんもご健在なので、今でも色々と相談に乗ってもらっています。
今我々がやらなければいけないのはこのブドウの樹の子どもを全国に広げていくことです。 上手くいくかどうかは分からないですけど、日本ワインの次の品種として、皆さんに育てていただければと思っています。甲州、マスカット・ベーリーA、その隣にメイヴが載ることを目指しています。
(おわり)
編集後記
メイヴの発見により思いがけずワイン造りの世界の扉を開いた田中さん。新ブドウ品種の学会発表、ブドウ栽培、ワイン造り、醸造所建設、更にはタンク製造まで構想されています。
ワイン造りの世界は田中さんにとって真新しいことだったはず。しかし田中さんは次々と新たな夢を描き、実現するためのアクションを起こしています。
長時間の取材を通して「チャンスを受け入れる力・夢を描く力・実現する力」について考える大切な機会を頂きました。
それらの力の源とは、田中さんが長年に渡り積み上げてきた前職・現職での経験、各方面の方たちと築いてきた信頼関係、そして持ち前の行動力なのでしょう。
メイヴと出会ったのは偶然ではなく、世界に向けて羽ばたかせてくれる田中さんだからこそ、このブドウは彼の元へやってきたのではないだろうか、そんな気がしました。
運だけでは次に進めない。夢を描く力、実現する力が必要だ。取材の後、そんなことを考えながら帰路につきました。
この記事の著者 / 編集者
田口あきこ(日本ワインなび編集長)
ホームパーティが好きなことから、より良いおもてなしをするためにワインを学び始める。2015年にワインスクール『レコール・デュ・ヴァン』のインストラクター養成講座にて講師に抜擢。
2018年 ワイナリー経営者を育成する学校『千曲川ワインアカデミー』にてブドウ栽培・醸造・ワイナリー経営について学ぶ。
2020年『日本ワインなび』を開設し、編集長として運営を行う。
2021年 JETROに附置する農林水産省・食品の輸出・プロモーション機関の事業で日本ワインの認知業務に携わり、海外向けに日本のワイナリー紹介記事を執筆。
日本ワイン検定 出題作成委員
・ワインスクール『レコール・デュ・ヴァン』講師紹介ページ
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