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Tomoe

ソムリエ・エクセレンス、元外資系航空会社勤務。現在は、酒類卸会社で会員制情報サイトの編集・執筆を担当。世界を飛んだ美食家として日本ワインの魅力を語ります。

泉 洋介

ワイン・エキスパート、海外出張の際には伝統国以外にもインド・中国産などNext new normalなワインにも触れ日々研究中。この経験と専門分野ブランディングとデジタルマーケを切り口に日本ワインの魅力と可能性について語ります。

吉田順子

ソムリエール、ワインカルチャー講師、女性が選ぶワインコンテストSakura Award審査員。ワインとお料理のマリアージュの視点から日本ワインの魅力と可能性を語ります。

内田一樹

『テイスティング』コーナーの進行役。ソムリエとワイン・エキスパート両方のエクセレンス資格を持つワインのプロ。さらに、栽培・醸造の学校卒業の経歴から、その視点で日本ワインの魅力と可能性を語ります。

第3回 マスカット・ベーリーA【Vol.5】

2020年10月1日

MBA 長期熟成vsコールド・マセレーション

5.プライベートリザーブ2014(都農ワイン)/ブドウ:宮崎県児湯郡都農町牧内農園 【3,300円】

では、5番6番にいきましょう。
外観は両方とも明るい色ですね。

5番はオレンジ色が入っていて熟成がすすんでいますね。

2014年ヴィンテージです。
マスカット・ベーリーAを熟成させたら、どういうワインになるかを見てください。

紅茶のようないい香りがします。
香りのボリュームがすごいですね。

ピノ・ノワールの熟成香にも似たようなキノコやなめし皮の艶めかしい香りがあります。
果実の香りはほぼ感じないですが、あんずのコンポートのような感じもあります。

カモミールのような香りが心地よいですね。

そうですね。甘い香りが強めです。

フレンチオークの上品な香りがします。微かに感じるバニラのような甘い香りがあります。

味わいは、心地よい酸味と、シルキーなタンニン。アフターに出汁の旨味をすごく感じます。

実は僕の友人がこのワイン造りの関係者の一人なのですが、ひいき目なしに本当に美味しい!感動しました。

微かに感じるベリー系の甘みや紅茶のような心地よい苦みも余韻に感じます。

台風の多い地域で収穫時期と重なって大変みたいだけど、醸造責任者の赤尾さんが、天体の動きに連動して栽培・収穫時期などをコントロールしてると仰っていました。
ワインづくりに厳しい環境下でいいワインを作ろうと創意工夫をされているクラフトマンシップ、心に響くブランドストーリです。

昨年、台風の直後に都農ワイナリーを訪問しましたが、マスカット・ベーリーAの畑も雨避けのビニールが飛んで針金だけになっていたり、支柱が倒れているところもありました。大変な気候の中でも、生産者の方々の類まれなる努力によって、こういった素晴らしいワインが造られているのですね。

台風でビニールが飛び、支柱だけになったブドウ畑
2019年 市川さん撮影

グレープゾーンだけではなくて、ブドウ畑全体をビニールで囲んでいるのですか?

都農ワインは平棚仕立てで、ブドウの房が上の方に付くので、マンズレインカットのようにブドウ樹の上に雨避けビニールを被せています。

平棚仕立て 都農ワインウェブサイトより転載

それと、潮の満ち引き、月の満ち欠けとか、一粒万倍日を活用した自然農法で育てていると伺いました。

完全なビオディナミではないけれど、天体の動きなどを取り入れて、ブドウの持つ潜在的エネルギーを引き出そうとしているんですね。
最近、テロワールも意識して畑の区画ごとに醸造しているようです。このワインも牧内農園という海に近い台地にある畑のワインで、火山灰土壌の「黒ボク土」のようです。

このワインは、ローストビーフに合いますね。

熟成した香り・味わいが、鴨の野趣的な味わいにも合いますね。まるでピノ・ノワールのような。

果実の香りや甘みが少ない方が、お料理に合わせやすいということかな?
しかもこのワインは柔らかさもあるので、幅広いお料理と相性がよさそうですね。

6.穂坂マスカット・ベーリーA コールド・マセレーション2019(本坊酒造マルス山梨ワイナリー)/ブドウ: 山梨県韮崎市穂坂地区 【1,628円】

では最後に6番はどうでしょう。

外観の色が鮮やかなルビー色できれいです。
ロゼといってもいい色ですね。

チャーミングな果実の香りがあります。
イチゴ、ラズべリーの赤系果実の甘酸っぱい香りと少し土っぽい香りが複雑味を感じさせます。

コールド・マセレーション(※1)からくる香りですね。
低温で醸し、発酵をすることで、ブドウの中にある華やかな香り成分や味わいの成分が、壊れずに引き出されたという感じですね。

コールド・マセレーションって、どれくらいの期間行うのでしょうか?

4~8℃の低温で数日間行われるようです。
主に色素や香りの成分であるフェノール化合物の抽出と色素の安定化を目的に行われます。
フェノール化合物は⽔溶性分⼦なのでアルコール発酵前でも抽出でき、ブドウ細胞の液胞にあるため、ブドウの中にある酵素の働きにより、細胞壁を破壊、分解して抽出されます。
数日間、アルコール発酵が起こらないように低温にして、この抽出を促す必要があるわけです。
コールド・マセレーションを行うと果皮からの優しいタンニンが抽出され、アルコール発酵後に、アルコールによって種の周りの油脂分が溶かされて種から出てくる荒々しいタンニンの抽出を抑える効果もあります。

完熟したマスカット・ベーリーA
マルスワインウェブサイトより転載

だからこのワインは、色・香りはしっかりとあるのに、タンニンが柔らかいのですね。

このワインの原料ブドウは、韮崎の穂坂産で、標高は高く酸がしっかり出ていて、粘土質土壌の凝縮感のある原料ブドウを使っています。
そのブドウをコールド・マセレーションで成分を遺憾なく抽出しているので、底辺に凝縮感があり、表面に華やかさが表れていると思います。

これで1,628円とお手頃な価格ですね。4番の朝日町のワインも1,650円と樽を使わないと千円台で造れるんですね。

この品質、味わいで1,600円台って、日本ワインとしては信じられない価格です。
3年前から仲間と買いブドウを使って委託醸造で日本ワイン造りをしているのですが、原料ブドウと委託醸造料だけで1本2千円は超えますからね。
自社畑と近代的設備による効率的醸造によって、手頃な価格帯に抑えられていますね。

この価格だと、ちょっとした集まりやピクニックなどのカジュアルな場面で活用できるワインですね。

バランスのいいワインなので、鶏や豚肉の料理から脂身の少ない赤みの肉料理全般に合わせやすいですね。

エレガントさが和食にも合わせやすいし、餃子や軽めの中華料理にもいけそうです。

メーカーのおすすめでも、食中以外にも、食後に生チョコやハード系のチーズに合うとか、幅広いお料理に合わせやすいようですね。

皆さん、今日はマスカット・ベーリーAの様々な可能性に挑戦しているワインをテイスティングしました。
その中で、「お料理との相性=マスカット・ベーリーAにはこのお料理、このお料理を食べるのだったらマスカット・ベーリーA」、ということがだんだんと明確になってくると良いな、と感じたのではないでしょうか。マスカット・ベーリーAは、川上善兵衛が生涯をかけてこの日本で生み出した交配品種です。歴史も長く、色々な可能性を秘めています。
 
日本ワインなびでは、「日本ワイン×お家レシピ」で吉田順子さんがワインとお料理の合わせ方、お家でのワインの楽しみ方を分かりやすく執筆されていますので、これからもマスカット・ベーリーAと相性の良いお料理を研究していくことにしましょう。

※1 コールド・マセレーション…日本では低温醸し法と呼ばれ、原料ぶどうを除梗破砕後、発酵を開始する前にタンク内で数日間低温浸漬し、その後発酵を行うことで色や風味成分の抽出を促進させる醸造法です。 ブドウ果実の中にある酵素によって細胞が分解し、成分抽出が可能になる。

(おわり)

この記事の著者 / 編集者

内田一樹

『テイスティング』コーナー進行役。ソムリエとワイン・エキスパート両方のエクセレンス資格を持つワインのプロ。さらに、栽培・醸造の学校卒業の経歴から、その視点で日本ワインの魅力と可能性を語ります。

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