第3回 マスカット・ベーリーA【Vol.4】
2020年10月1日
MBA 同じ畑で樽ありvs樽なし
3. マイスターセレクション遅摘み2017(朝日町ワイン)/ブドウ: 山形県朝日町・柏原地区【1,980円】
4. 柏原ヴィンヤード遅摘み赤2019(朝日町ワイン)/ブドウ: 山形県朝日町・柏原地区 【1,650円】
では、3番と4番にいきましょう。
両方ともにブドウの畑は一緒で、日本で一番遅く収穫されるマスカット・ベーリーAから造られたワインです。
3番は樽を使って熟成しヴィンテージは2017年、4番は樽を使っていなくて2019年です。
3番(2017年)は干しブドウまでいかないけど、熟したニュアンスを感じます。凝縮感があります。それから、少しキノコっぽい熟成感を感じます。
3番はタンニンもしっかりあります。
3番にブラウンマッシュルームや腐葉土など熟成を感じる香りがあります。
樽ありと樽なしの違いはどうですか?
4番(樽なし)の方は、フレッシュ感があってチャーミングです。
フレッシュで果実味豊かですね。
樽を使うと酸化熟成がすすむので、果実やお花の香りから感じるフレッシュさは減りますね。
でも、マスカット・ベーリーAは、樽との相性が良い品種と言われていて、しっかりしたワインにするために樽を使う生産者は多いですね。
4種類のマスカット・ベーリーAを飲んできて、品種個性としてのチャーミングさが私は気に入りました。
白ワインは酸がポイントになりますが、赤ワインはどうなんでしょうね。
赤系果実(イチゴなど)の香りの赤ワインは、柔らかいタンニンと酸によるエレガントさと旨味、黒系果実(ブラックベリーなど)寄りのワインは骨太のタンニンとボディだと思います。
勉強になります!そういう意味では、マスカット・ベーリーAは、赤系の品種のワインの方向性ですね。
マスカット・ベーリーAは、国際品種のガメイに近いですが、ヴィニフェラではなくラブルスカ(※3)で、もともとは食べるブドウです。
甲州の時の議論でありましたが、今、ナチュラルな造りをするワインが世界的なトレンドになってきているので、マスカット・ベーリーAの持つフルーティーでチャーミングな個性を出していく方がトレンドには近いような気もします。
日本の生産者も差別化を考えていて、樽を使ったり、遅摘みなどで果実の凝縮感を高め、果実味を抑えて、しっかりした骨格のワインを造る方向も模索していますね。
でも、この4種類のワインは、栽培や醸造の方法ですごく違ったタイプのワインになっていて、それぞれが、マスカット・ベーリーAの素敵な個性だと思います。
シャルドネのように土壌・気候、そして醸造によって、いかようにも変化するニュートラルな品種もありますが、マスカット・ベーリーAは、特徴がはっきりした品種のはずですから、その個性を存分に引き出した、唯一無二のワインが生み出されていきそうですね?
樽を使うなどして、もともとの個性であるフォクシー香(※4)と違ったマスカット・ベーリーAの個性=可能性を引き出そうとしているんじゃないでしょうか。
フォクシー香以外の個性や可能性ってどのようなものでしょうか。
フォクシー香を前面に、チャーミングでフレッシュ・フルーティーな個性で売っていたマスカット・ベーリーAを、もう一方の個性=遅摘みによる果実の凝縮感、樽との相性による熟成感を引き出すということではないですか。それは、お化粧ではなく、本来ブドウが持っていた成分や隠れた個性を引き出すという挑戦だと思います。
朝日町ワイン 遅摘みマスカット・ベーリーA
Libera web Magazineウェブサイトより転載
挑戦してるってことは、すごくよく感じます。
マスカット・ベーリーAの新たな可能性を引き出そうとしてるんだなと思います。
従来の個性に捕らわれることなく、新しい個性を探し出す取り組みなんですね。
挑戦は素晴らしいことだと思います。ただ、従来のマスカット・ベーリーAのチャーミングでフルーティーなところが好きで購入したら、全然違った味わいのワインだとびっくりする人もいるかもしれませんね。「こういう試みでこのワインは情熱を持って造られているんだ」ということを消費者の方々に伝えていけたら、そのワインを120%楽しんでもらえそうですね。
マスカット・ベーリーAの個性とは?みなさんどう思われますか?
デラウェアやコンコードと同じく、やはり食用ブドウで造られたフルーティーなワインというイメージが強いですよね。
デラウェアは、今、日本ワイン市場で甲州とともに人気品種で、デラウェア独特の香りも人気だし、その独特の香りがしないシリアスな香りのデラウェアも人気ですよね。
品種の個性という点では、どんな風にお料理と合わせるか、ということがマスカット・ベーリーAのこれから楽しみな可能性ですよね。
マスカット・ベーリーAの個性を引き出すお料理がしっかりと認識されて、外食でもっと多く利用されるようになるといいですね。
甲州の時も和食と合わせる点で、もっと多くの日本の和食屋さんに甲州の個性を明確にして知っていただく、その必要性が話題になりましたが、今回のマスカットベーリーAは、品種の個性が一体どういったものなのかをもっと掘り下げて考えることによって、可能性が広がりそうですよね。
洋食だとフルーツ系のソースを使ったお料理、和食だと甘辛い醤油系、みりん系のお料理が合いそう。
あなご、うなぎのタレで焼いたものは合いそうですね。
洋食のコースで考えると、コースの前半で飲むフレッシュなワインというポジションですね。
※1 ヴィニフェラとラブルスカ…シャルドネやメルローなど、ワイン用のブドウの種はヴィティス・ヴィニフェラと呼ばれる。食用のブドウはヴィティス・ラブルスカと呼ばれ、マスカット・ベーリーAもその一つ。他にはコンコード、ナイアガラ、デラウェアなどがある。
※2 フォクシー香…アメリカ系ブドウ品種「ヴィティス・ラブルスカ系の交配品種」に存在する香り。グレープジュースのような甘い香りが特徴的。
(つづく)
この記事の著者 / 編集者
内田一樹
『テイスティング』コーナー進行役。ソムリエとワイン・エキスパート両方のエクセレンス資格を持つワインのプロ。さらに、栽培・醸造の学校卒業の経歴から、その視点で日本ワインの魅力と可能性を語ります。