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日本ワインの歴史

【Vol.3】日本ワインの開拓者~山田宥教と詫間憲久~

掲載日:2020年7月1日

日本ワインの開拓者といえばこちらの2人。
山田宥教(ひろのり)と詫間憲久(のりひさ)です。
1870~1871(明治3~4)年頃、山梨県甲府市に2人によって山ブドウと甲州ブドウから本格的ワインが造られました。

日本ワイン誕生の記録

日本ワイン誕生の記録は、『大日本和洋酒缶詰沿革史』という洋酒などについて書かれた歴史書に載っています。
この歴史書は、1915(大正4)年に大日本和洋酒缶詰新聞社から発行されたもので、ビールやワインについて書かれた洋酒編は当時の大蔵省酒税書記官などによって執筆されました。

大日本和洋酒缶詰沿革史
発行 大正4年
日本の古本屋(東京都古書籍商業協同組合)

日本ワインの誕生について大日本和洋酒缶詰沿革史にどんな風に書かれているか見てみましょう。

葡萄酒の起源を述べんと欲っせば、吾人は筆を山梨県に起こさざるを得ず。同県は葡萄の産地として夙(つと)(※1)にその名を海内に馳せ、巳(すで)に明治三、四年頃、甲府市廣庭町山田宥教、同八日町詫間憲久の両人共同して醸造を企て、超えて明治十年には同県勧業課に於て葡萄酒醸造場を設置したるの事蹟あり(215頁)

山梨県に於ける葡萄酒の起源を繹(たず)ぬるに、明治三、四年の頃、甲府市廣庭町山田宥教、同八日町詫間憲久の両人相共同して葡萄酒の醸造を開始し、製品を京浜方面に移出したるを以て権輿(けんよ)(※2)とするが如し。蓋(けだ)し(※3)山田宥教は維新前より野生葡萄實を以て葡萄酒を試醸し、其の成果相当に良好なりしを以て、茲(ここ)に共同経営を為すに至れるなりと云ふ。(227頁)

大日本和洋酒缶詰沿革史(大正4年)(大日本和洋酒缶詰新聞社)より転載

さて、明治時代に殖産興業の一環としてワイン造りが奨励されたわけですが、227頁によれば、山田宥教は明治維新前からワイン造りを始め、その成果が良好だったので詫間憲久と(ぶどう酒共同醸造所を)共同経営することになったと書かれています。

大久保利通が近代国家を目指して云々かんぬん言いだす前から、ワイン造りに取り掛かっていたのにはどんな背景があったのでしょう?

※1…早くに
※2…物事の始まり
※3…おそらく、きっと



山田宥教~明治維新前からワイン造りをしていた背景~

山田宥教は甲府広庭町(現在の甲府市武田)にある大翁院という寺院で法印(※4)を務めていました。

ワイン醸造とは程遠い職業の彼がなぜワイン造りを?
とますます疑問になるわけですが、山田宥教がワイン造りを始めたきっかけは、青年時代に訪れた横浜での出来事に遡ります。

山田宥教は江戸時代末期に開港した横浜港を訪れる機会があり、外国人がワインやビールを飲む姿を目の当たりにして触発されたそうです。

また、開港と同じ年に東油川村(現在の笛吹市)から出てきた篠原忠右衛門なる人物が本町で「甲州屋」を開店。
甲州産の生糸、甲斐絹、市川和紙などを横浜に流通させました。
2階は宿泊所となり、毎晩、ワインやブランデーなど、洋酒の試し酒をする場となったそうです。今風に言うならば、山田宥教も甲州屋でワインをテイスティングしていたのではないでしょうか。

その後、甲府に帰った山田宥教はワイン造りにトライ。
彼は純粋に西洋の文化に感銘を受けて、それを日本でもやってみようと思ったのですね。

※4…最高位の僧

早稲田大学図書館『神名川横浜新開港図』(1860年(万延元年)より出典

謎に包まれる詫間憲久

一方の詫間憲久については、詳しいことは明らかにされていません。
ただ、甲府八日町(現在の甲府市中央)の資産家であった詫間平兵衛の一族だと推定されていて、詫間憲久の家でも酒などを扱っていたのではないか?と考えられています。
そう推察できるのは、平兵衛は酒や味噌などを手広く扱っていたことと、当時、ワイン造りにトライする人の多くは日本酒の醸造家の出身だったからです。

参考文献:
日本ワイン誕生考(2018年7月)(仲田道弘著 山梨日日新聞社)

(おわり)

この記事の著者 / 編集者

田口あきこ

田口あきこ(日本ワインなび編集長)

ホームパーティを開催することが多いことから、より良いおもてなしをするためにワインを学び始める。2015年にワインスクール『レコール・デュ・ヴァン』のインストラクター養成講座にて講師に抜擢。
2018年春からワイナリー経営者を育成する学校『千曲川ワインアカデミー(長野県東御市)』にてブドウ栽培・醸造・ワイナリー経営について学び、講師業の傍ら、超新規ワイナリーの立ち上げ・畑仕事のお手伝いにも出掛ける。
2020年『日本ワインなび』を開設し、編集長として運営を行う。
ワインスクール『レコール・デュ・ヴァン』講師紹介ページ
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