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日本ワインの歴史

【Vol.2】何がきっかけ?国を挙げて明治時代にワイン造り

掲載日:2020年7月1日

江戸時代に福岡県で本格的なワイン造りが行われていたことが判明する前、日本で本格的なワイン造りが始まったのは今から約140年前の明治初期と考えられていました。

実際、産業としてワインを生産し始めたのは明治時代です。
なぜ、急に国を上げてワインを造ることになったのでしょう?

殖産興業政策

明治初期、殖産興業政策の一環としてワイン造りは奨励されるようになりました。
殖産興業とは、簡単に言うと、明治政府が欧米の先進諸国に対抗して行った諸政策のことです。

鎖国が終わった開国後の日本は、欧米諸国との力の差を感じていました。
200年以上もの間、海外との交流を殆どはからず、国を閉じていたわけですから、その差は歴然。
さて、周りのアジアの国はどんな感じ?と見渡してみると…ひぇぇ…植民地化されている!

明治政界のリーダー(初代内務卿(実質上の首相))だった大久保利通は、日本も植民地化されてしまわないよう対策を考えます。
そこで官営事業や模範工場を創設し、西洋の技術を導入して近代工業を盛んにしていこうとしました。

殖産興業のために掲げたスローガンは「富国強兵」。
急に日本史の教科書がフラッシュバックします。
富国強兵とは、日本の産業を発達させて、経済力のある国にして強い軍隊を創り上げるという意味です。

大久保利通

国立国会図書館ウェブサイト『近代日本人の肖像』(国立国会図書館)より出典
https://www.ndl.go.jp/portrait/datas/32.html

殖産興業によって発達した産業例

殖産興業によって発達した産業には、下記のようなものが挙げられます。

  • 造船業
  • 八幡製鉄所
  • 造幣局
  • 富岡製糸場
  • 鉄道の開業

造船業について。
開国後、海軍を創設した幕府は国産軍艦の建造に乗り出していました。
明治維新後は、造船所の建設は新政府に継承され、フランス海軍技師レオンス・ベルニが招請され横須賀海軍工廠として改良されました。島国である日本にとって、造船業の近代化は国を守るためにとても重要なことでした。
(第二次世界大戦後は在日米軍工廠となり、現在に至る。)

建造中の弘明丸(旧横浜丸)(明治2(1869)年)
日仏文化交流写真集『第1集』(駿河台出版社)より出典

富岡製糸場について。
富岡製糸場(群馬県)は、日本で最初の官営模範製糸場。
新政府は、主要輸出品である生糸の品質改良と大量生産を目指し、群馬県に富岡製糸場を設立しました。

模範工場の基本的な考え方は主に3つでした。1つ目は洋式の製糸技術を導入すること、2つ目は外国人を指導者とすること、3つ目は全国から工女を募集し、伝習を終えた工女は出身地へ戻り、器械製糸の指導者とすることでした。

世界遺産 富岡製糸場HP『歴史を学ぶ/富岡製糸場設立の目的とその背景』(群馬県富岡市)より引用

フランス人ポール・ブリュナ指導の下、士族の子女などが技術を習得しました。
当時の最新機器を導入したことにより、日本の生糸輸出量は一時、世界一になったそうです。
(2014年に富岡製糸場は世界遺産に登録されました。)

錦絵「上州富岡製糸場」(明治5年)
世界遺産 富岡製糸場HP『歴史を学ぶ』(群馬県富岡市)より出典

初めての鉄道が開通したのもこの時期。
さまざまな産業が発展し、工場で製品が生み出されるようになると、それを効率的に運ぶための輸送機関が必要となったというわけです。

数々の殖産興業政策の一環として、西洋に倣って日本もワイン造りをしてみよう!となりました。

1870年には開拓使によって東京青山にブドウなどの試験園が設置され、同時期に山田宥教(ひろのり)と詫間憲久(のりひさ)なる2人が山梨県甲府市で本格的ワインを造り始めます。そのお話はまた今度。



日本人とワインの出会い

殖産興業の前に、そもそも日本人はワインがどんなものか知っていたのでしょうか?

日本史上、室町時代に南蛮酒が飲まれていたという記録があります。それはさておき、一般の人がワインに接することができたのは、明治維新の約10年前から。1859年に横浜港が開港し、翌年にはオランダ人の元船長フフナーゲルが横浜ホテルを開業。(横浜ホテルは日本初のホテル)
その後も外国人が経営するホテルやクラブが次々に開業し、欧米から多くのビジネスマンが訪れたそうです。
こういった環境のなかで日本人はワインに触れることになりました。
タイムスリップしてその頃の飲食店に行ってみたいものです。

『外国人酒宴之図(がいこくじんしゅえんのず)』
制作 1860年

国立国会図書館デジタルコレクションHP(国立国会図書館)より出典
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1311885

安政6年(1859)、横浜が世界に向けて開港すると、移住した外国人の様子を伝える浮世絵が出回るようになる。ここでは、外国人男性が二人テーブルを囲み、酒を酌み交わす様子が描かれる。中央には豪華なガラス製酒器セットが置かれ、憧れを持って描かれたことをうかがわせる。(『和ガラス 粋なうつわ、遊びのかたち』サントリー美術館、2010年)
SUNTORY HP『サントリー美術館/コレクションデータベース/外国人酒宴之図』より引用

参考文献

(おわり)

この記事の著者 / 編集者

田口あきこ

田口あきこ(日本ワインなび編集長)

ホームパーティを開催することが多いことから、より良いおもてなしをするためにワインを学び始める。2015年にワインスクール『レコール・デュ・ヴァン』のインストラクター養成講座にて講師に抜擢。
2018年春からワイナリー経営者を育成する学校『千曲川ワインアカデミー(長野県東御市)』にてブドウ栽培・醸造・ワイナリー経営について学び、講師業の傍ら、超新規ワイナリーの立ち上げ・畑仕事のお手伝いにも出掛ける。
2020年『日本ワインなび』を開設し、編集長として運営を行う。
ワインスクール『レコール・デュ・ヴァン』講師紹介ページ
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