日本ワインに細かい表示ルールが必要になった理由
掲載日:2020年7月1日
細かい表示ルール
国産ワインと日本ワインが区別されるのと同時に、ブドウ品種、ブドウの原産地、ブドウの収穫年などについても表示されるようになりました。
(ワインの世界で「ヴィンテージ」という言葉がありますが、これはブドウが収穫された年のことです。)
細かい表示ルールが決められた背景
細かい表示が決められたのには、こんな背景がありました。
- 国内の酒類消費が伸び悩む中、ワインは消費が拡大している成長産業
- 「日本ワイン」は国際コンクールで高い評価を得るようになってきている
- 海外のワイン産地のように、我が国でも「日本ワイン」のテロワール(※1)や繊細な醸造技術を世界にアピールしたい
商業的には明治時代から造られてきた日本ワインは、いよいよ醸造技術が上がり、高品質なワインを造れるようになりました。
しかし、日本ワインを世界で認めてもらうために、第一にやらなければならないことがありました。
それが「国際的なルールを踏まえた表示の基準」を作ることです。
じゃあ今までのラベル表示は何だったの?
と言いますと、法律など確固としたルールはなく、業界団体の自社基準に基づくものでした。
例えばこんな経験ありませんか?
地方に行ったとき、地名がラベルに入っているワインを友達にお土産として買った。帰宅してから裏ラベルをよく見てみたら、旅先とは全く違う都道府県で造られていて一瞬焦る、みたいな(笑)
(※1)ブドウの成育に影響を与える畑の土壌や地勢、気温など、その土地固有の自然環境全ての総体のこと。人もテロワールの一部だと捉えるべきだ、という考え方もある。
EUのワイン表示ルール
では、「国際的なルールを踏まえた表示の基準」とはいったいどんなものなのか?
ワイン伝統国がひしめき合うヨーロッパ諸国のルールを見てみましょう。
まず、EUのワインは地名が書いてあるワインと地名が書いてないワインの2つに分類されます。
地理的表示ありのワインは更に2つのカテゴリに分類されます。
- A.O.P. ( Appellation d’Origin Protégée): 原産地呼称保護
- I.G.P. (地理的表示保護):Indication Géographique Protégée
品質的にはAOPがトップカテゴリです。
AOPには栽培や醸造方法などについてより厳しいルールが定められています。
また、IGPに比べてAOPはワインの品質・特徴が、その土地の特殊な地理的環境との結びつきがより強く求められます。
ブドウついてもルールが厳しく、ヴィティス・ヴィニフェラ(欧中東系)種のみを使って指定の地域で栽培されたブドウ100%で造らなければなりません。
AOPの具体的な例を挙げてみます。
シャブリという名前のワインを聞いたことありますか?
シャブリというのは、ブルゴーニュ地方(フランス)にある村名です。
ワインラベルに「Appellation Chablis Protegee」と書いてあったらそのワインは次のようなことを守らないといけません。
(フランスの旧ワイン法に従って「Appellation Chablis Contrôlée」と書かれている場合もあります。)
- シャブリで栽培されたブドウを100%使う
- ブドウ品種はシャルドネでなければならない
- 辛口の白ワインでなければならない
など、守らなければならないルールが他にももっとたくさんあります。
もし、私がシャブリに住んでいたとして、黒ブドウを使って赤ワインを造りたいと思っても、ワインラベルに「シャブリ」と書いたらルール違反なので罰せられます(;^_^A
日本ワインを世界で認めてもらうために、「国際的なルールを踏まえた表示の基準」を設ける必要があったというのは、海外のワイン生産国と比べ、ワイン法に大きな格差があったからです。
次の記事では、日本の細かい表示ルールについて分かりやすく解説します(*^-^*)
参考文献
- 国税庁HP『「果実酒等の製法品質基準」について』国税庁
- 日本のワイン法 著者 蛯原健介『第2章 日本のワイン法の誕生』(2020年1月29日)虹有社
- 日本ソムリエ協会教本『ワインに関するEUの規則』(2020年3月)(日本ソムリエ協会)
- 改訂版 初級ソムリエ講座『第2章 フランスのワイン』(2020年3月1日)
- 日本ワイナリー協会HP『表示基準・表示事項解説』
(おわり)
この記事の著者 / 編集者
田口あきこ(日本ワインなび編集長)
ホームパーティが好きなことから、より良いおもてなしをするためにワインを学び始める。
2015年 ワインスクール『レコール・デュ・ヴァン』の講師に抜擢。
2018年 ワイナリー経営者を育成する学校『千曲川ワインアカデミー』にてブドウ栽培・醸造・ワイナリー経営について学ぶ。
2020年『日本ワインなび』を開設。
2021年 JETROに附置する農林水産省・食品の輸出・プロモーション機関の事業で日本ワインの認知業務に携わり、海外向けに日本のワイナリー紹介記事を執筆。
2024年より千曲川ワインアカデミー倶楽部公式HP『生産者ストーリー』執筆。
同年 北海道余市町登に3.4haの農地を取得し、vineyard開設中。
日本ワイン検定出題作成委員
LDV日本ワインLover講座主任
・ワインスクール『レコール・デュ・ヴァン』講師紹介ページ
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